8月17日、韓国警察のイントラネット(内部ネットワーク)にこんな一文が載った。ソウルのある地区隊(交番に相当)に所属する34歳の巡警(巡査に相当)は、昨年から「酒暴」(酒に酔って暴力を振るう人物)との訴訟戦を展開している。
泥酔状態の男(34)を摘発する過程で全治5週間のけがを負わせたとして、裁判に巻き込まれたのだ。同僚の警察官は「私も犯罪者から悔しい思いをさせられることがある。人ごとではない」と募金運動に乗り出した。
■「酒暴」からの裁判の脅しに苦しむ巡警
昨年7月16日、この巡警は「男が飲み屋で酔って乱闘を繰り広げ、営業を妨害した」という通報を受けた。男を現行犯で逮捕し、地区隊に連行した。酔った男は巡警をなぐるかのような動きを見せた。巡警はこれを制止しようと、左手で相手の首を押して倒した。
男は床にぶつかって、頭などに全治5週間のけがをした。巡警は「公務執行の過程で起こったこと」と抗弁した。しかし、酔客を暴行した罪(「特定犯罪加重処罰等に関する法律」上の汚職暴行)で起訴された。もう少し防衛的に対処すべきだというのが、起訴した検察の判断だった。
この男は、巡警を相手取って刑事および民事訴訟を起こした。警察公務員法によると、現職警察官が裁判で資格停止以上の刑を受けた場合、退職しなければならない。裁判の結果を確言することはできなかった。巡警は刑事合意金5000万ウォンと治療費300万ウォン(約29万円)を出した。
悔しかったが、少しでも有利な判決を得るためだった。巡警は無理を承知で融資を受けて工面し、同僚の警察官も自分の財布をはたいて支援した。
巡警は今年7月、懲役6カ月・宣告猶予の判決を言い渡された。裁判所は「泥酔した男性は威嚇的な行動を取ったが、巡警は拳や腕をつかむ方法で制圧が可能だった」と判示した。
巡警はかろうじて警察官の職を維持した。警察内部からは「脅しを受けた瞬間のとっさの対処に、あまりにも厳しい物差しを当てはめた」という声が上がった。この事件で一時入院し、後に退院した男は、昨年9月にまたも酒に酔って営業妨害をした容疑で逮捕され、刑務所に送られた。
そんな状況でも、昨年12月に男は巡警を相手取って民事訴訟を起こした。精神異常の症状にかかったとして、4000万ウォン(約390万円)の損害賠償と治療費を要求した。
■警察、同僚のために1億4000万ウォンを募金
ここで同僚たちが動いた。大勢の警察官が「自分も似たような経験をした。気にせず力を出せばいい」と応援した。8月17日に一文を載せてから2日で、警察官5730人が巡警の口座にお金を送ってきた。
少ない者で1万ウォン(約960円)、多い者では30万ウォン(約2万9000円)、合わせておよそ1億4000万ウォン(約1340万円)が集まった。思っていたより多くのお金が集まり、2日間で募金を切り上げた。
文章を載せた巡警の直属の上官(地区隊長)は「クレーマーによって悔しい経験をさせられた警察官が、それだけ多いということの傍証」と語った。巡警は周囲に「損害賠償をして、残りのお金は自分のように悔しい目に遭った同僚警察官のために使いたい」と語った。
韓国警察に、公務の執行で難しい状況に直面した職員を支援する制度は特にない。警察職員が少しずつお金を出し合い、無念の状況に立たされた同僚に訴訟費などを支援するというケースはあった。しかし、これは法的な根拠がない、一種の自発的な「助け合い」だ。
警察官が公務執行中に犯罪者から脅されるケースも多い。警察に対する公務執行妨害事犯は1万4556件(2015年基準)に達する。しかし、犯罪に積極対応して訴訟やクレームに苦しむ警察官は多い。消極的に対応するしかない状況だ。
一部の警察幹部は「この機会に、公務を執行して無念の状況に巻き込まれた警察官のための救済制度を整備すべき」と語った。
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2017/09/01/2017090101664.html
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