続き)

史上初

バイキングとムスリム世界の接触の歴史は、史料の記述や北半球でイスラム世界の硬貨が発見されたことなどにより、かねてから確認されてきた。
研究者たちが2年前、ビルカで女性の墓から出た銀の指輪を再調査したところ、
指輪の石に「アラーのために」との言葉が刻まれているのを見つけたこともある。この時も文字はクーフィー体だった。
クーフィー体は7世紀にイラクの町クーファで考案され、コーランを書き記すのに使われた最初のアラビア文字の1つとされる。
ラーション氏の発見については、「アリ」と書かれた歴史的遺品がスカンジナビア諸国で初めて見つかったという点が、非常に興味深い。

ソース画像
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「アリという名前が、アッラーという言葉の横に繰り返し書かれています」とラーション氏。
「アリはイスラム教徒最大の少数派、シーア派の崇敬の対象。何かつながりがあるのだろうか、気になった」
アリは預言者ムハンマドのいとこで、ムハンマドの娘ファティマと結婚したため、義理の息子にあたる。
またムハンマドの死後、イスラム世界で4代目の指導者となった。
スンニ派もシーア派もアリをムハンマドの重要な側近として崇敬しているが、シーア派の間では特にその地位が高く、
預言者ムハンマドの精神的な後継者だと見られている。
「アリの名前を使っているのは、シーア派との結びつきを示している」。
ロンドンのイスラム大学イスラム研究プログラムのリーダーで、英国のシーア派向け雑誌「イスラム・トゥデイ」の編集長でもある
アミール・デ・マルティーノ氏はこう言う。
デ・マルティーノ氏はさらに、「しかし、『アッラーの友』を意味する『ワリ・アッラー』の言葉が付いていないため、
これは主要シーア派文化のものではなく、ほかから誤って模写したものかもしれない」と説明した。
「この模様はアリがアッラーと同格だと示しているため、このような考えを信じた、
かなり初期の極端な神秘主義一派と何らかのつながりを持つ可能性がわずかにある。しかし、おそらくは誤って模写された模様だろう」

ソース画像
https://ichef.bbci.co.uk/news/624/cpsprodpb/6C2E/production/_98249672_6.jpg

アッラーとアリの名前は現在でもしばしば、
アレビー派やベクタシュ教団などの神秘主義的なシーア派の分派の墓や、
書物の中の謎めいた模様に描かれている。しかしその場合は必ず、「ムハンマド」と添えられている。
このような模様には、左右反転の鏡文字が含まれることもある。
しかしラーション氏の発見と異なり、こうした模様には通常、正しい方向で記された名前と鏡文字の両方が含まれる。
だがラーション氏は、今回の発見で今後の研究が楽しみになったと話す。
「バイキングの模様を、従来とは違う目線で見るようになった。
一連の発掘調査の残りの遺品や他のバイキング時代の衣類からも、イスラム教の碑文をもっと見つけられると確信している」
「ひょっとしたら、衣類以外の遺物からも出てくるかもしれない」
(タリック・フセイン氏はロンドン在住のフリーランスジャーナリスト、旅行作家。イスラム教の歴史・文化が専門)


BBCニュース
http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-41774462