連載 デルクイ
すべての人は、移住者だ。
 ドイツでの生活は、市役所での住民登録から始まった。
すべての記入が終わると、役所から地元紹介のパンフレットと、図書館とプールの利用券、バッグやグッズなどを一通りプレゼントされて、
「ようこそ(今日からあなたはこの街の住民です)」と言われた。面食らった。私が住民になることを喜んでくれる人がいるんだ、と思った。
思い起こせば日本の役所は酷かった。長い間晒され続けたあの侮蔑的な眼差しと対応は、心の傷となって今も消えない。たとえば14歳のときの、
今はなくなった指紋押捺の体験。
学校を休んで品川の入国管理事務所まで行き、汚い廊下で待たされ、指を押えられて指紋を取られた。押捺後にわら半紙で指を拭いたときの屈辱感は忘れられない。
しかも、そんなことを口に出せば「嫌なら出て行け」と言われる。それは、差別者の常套句として今も使われている。
 住民登録が終わって2カ月後、無料の健康診断の案内が来た。これにも驚いた。私には、移住者も住民であるという、ごく当たり前の感覚さえなかったことに気付かされた。
>>632
https://websekai.iwanami.co.jp/posts/522