朝比奈隆著「指揮者の仕事」(実業之日本社)
「音楽の聴き方に関連して言えば、僕の若いころ、会社を辞めたあとの青春時代ですが、
音を聞き分けるということがはやっていました。
「この音は何の音?」と言って、ドとかミとかを当てるようなことです。
あれも絶対的なものじゃないけど、子供のときから当てもののように「これは何」とやらせると、
感覚に対して反応みたいなものがある。
僕はそういうことをやったこともなし、いまでも当たらないんじゃないかな。

こういうことを言うと音楽家諸君に怒られるかもしれないけど、ポンとたたいた音が出て、
それがドかレかその間の音か、というのが分かったからいい音楽家になれると思いますか。
それは物理的な感覚とか記憶であって、音楽ではない。音楽というのはそういう音がつながって、
モーツァルトとかベートーヴェンの作品になっていくものです。

音を当てられるというのは、字を覚えるみたいなものですね。
字を覚えて、何という文字は何画かが分かったから学問ができるというわけではないでしょ。
音を聞き分けるなんてことは、聞き分けないよりはいいかもしれないけど、音楽の能力とは無関係だと思います。

そういう教育を受けた人がいまもかなりいると思う。パッと言ったらサッとわかるというような。
でもその人たちがみんな、いい演奏家になっているかというと、まずなっていないんじゃないでしょうか。

ヴァイオリン弾きには割合便利なんです。
あれは木でつくった楽器で、放っておくとピッチ(音程)が変わるから。
それを変わらないようにコントロールしていくには、僕らいちいちピアノをたたいてやりますが・・・。

まあそのくらいの便利さはあるが、演奏に才能として現れてくるというのとは、別の次元の問題です。

音楽を上達するのは、音を覚えることでもなく、音楽を数多く聴くことでもない。
好きこそものの上手なれで、その人のキャラクターということになります。」
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ソルフェージュの訓練を受けなかった、受けても解らなかった、その意味すら解らなかった、証拠
楽音には、それぞれの音に固有の音色があるから、音名を間違えない