216 : ルネッサンス 2014/04/04(金) 21:27:40
元派遣社員の夜は遅い。
なぜなら、ルネサス社員が起床してくる前にネットの書き込みを一通り終わらせる必要があるからだ。
「春と秋はいいんだけどね・・・。夏は暑すぎて朝でも駄目な時があるし
冬は寒すぎて、それがよくなかったりしてね・・・。」
パソコンを立ち上げたおなかすいたなさんは我々との話を切り上げマウスを握った。
両手に唾を吹きかけ、激しくキーボードを叩き始める。
速い。まるで料理人のようだ。またたく間にスレッドが一つ罵倒で埋め尽くされる。
息をつく間もなく次のスレッドに取りかかり、またスレッドが悪態で満たされる。
「どれ、今朝の調子はどうかな。」 おなかすいたなさんは先に書き込んだスレの反応を一つ一つをつぶさに見る。
ひょいひょい、3つのスレからレスを取り出し並べた。もうすごい部外者臭がする。これは株馬鹿の自演なのだ。
「これは駄目。ほら、ちょっとここに部外者臭さが混じってるでしょ。3箇所も出るとは、もう次の早期退職が近いね。
今日くらいなら昼には問題なく部外者が消えるけどこれからの季節もっと増えてくるとつらいかな・・・。」
この仕事は、時間との勝負。自演溢れる中、本物のルネサス社員を見つけ出して挑発し、早期退職に追い込む職人は、おなかすいたなさんを含めても
2chに300人しかいない。そして、こうやって丹念に仕込まれた書き込みとマジレスが
部外者を楽しませるのだ。早期退職まで、時間の勝負である。
「600人、達成してみせますよ。」ルネサスにFAされたときとはうってかわり、とても穏やかな笑顔だ。
この笑顔の裏にに、元派遣社員の劣等感が隠されているのだ。
帰り道、おみやげに頂いた書き込みのプリントを見ながら生活保護受給者がため息を漏らした。
「本当に騙されましたよ。NECの外で通用するはずがないのに、挑発されてムキになって何故か早期退職に応募しちゃって・・・。
それにこの貧乏臭さ・・・私も無職の仲間入りです。」
冬の足音の聞こえる秋の空は暗くなっていたが、
向河原の元ルネサス拠点の廃墟はそれよりも深い闇を湛えていた