青空文庫はいいぞ。 例えばこういうのもある
夫婦の虚空蔵こくうぞう
「あの夫婦は虚空蔵さまの生れがわり……」
 という子守娘の話を、新任の若い駐在巡査がきいて、
「それは何という意味か」
 と問い訊ただしてみたら、
「生んだ子をみんな売りこかして、うまいものを喰うて酒を飲まっしゃるから、コクウゾウサマ……」
 と答えた。巡査はその通り手帳につけた。それからその百姓の家うちに行って取り調べると、五十ばかりの夫婦が二人とも口を揃えて、
「ハイ。みんな美しい着物を着せてくれる人の処へ行きたいと申しますので……」
 と済まし返っている。
「フーム。それならば売った時の子供の年齢は……」
「ハイ。姉が十四の年で、妹が九つの年。それから男の子を見世物師に売ったのが五つの年で……。ヘエ。証文がどこぞに御座いましたが……間違いは御座いません。ついこの間のことで御座いますから。ヘエ……」
 巡査はこの夫婦が馬鹿ではないかと疑い初めた。しかも、なおよく気をつけてみると、今一人の子供が女房の腹の中に居るようす……。
 巡査は変な気持ちになって帳面を仕舞しまいながら、
「フーム。まだほかに子供は無いか」
 と尋ねると、夫婦は忽ち真青になってひれ俯した。
「実は四人ほど堕胎おろしましたので……喰うに困りまして……どうぞ御勘弁を――」
 巡査は驚いて又帳面を引き出した。
「ウーム不都合じゃないか。何故そんな勿体ないことをする」
 というと、青くなっていた亭主が、今度はニタニタ笑い出した。
「ヘヘヘヘヘヘ。それほどでも御座いません。酒さえ飲めばいくらでも出来ますので……」
 巡査は気味がわるくなって逃げるようにこの家うちを飛び出した。
「この事を本署に報告しましたら古参の巡査から笑われましたヨ。何でも堕胎罪で二度ほど処刑されている評判の夫婦だそうです。二人とも揃って低能らしいので、誰も相手にしなくなっていたのだそうです」
 と、その巡査の話。