仕事を終えたフランツは、今日も大急ぎで走って帰ってくる。
そして、大きく息をはずませたまま、真っ先に
私の大きな大きなおなかに向かって「ただいま」と言うのだ。
そのうれしそうな顔！
でも、この大きなおなかとも、もうすぐさようなら。
早くこの子に会いたくて、毎日、毎日「あと何日」って数えてきたけど、
その日が近づいてくると、ちょっぴり不安になってくる。
もうすぐおばあちゃんになる、私のママは 「大丈夫。リカが頑張るんじゃないの。 この子が、頑張って出てきてくれるのよ。」 と言った。
ママも、ママのママ（おばあちゃん）から、 同じ言葉をもらっていたのかも
知れない。 おなかの子に、「頑張ってね。」と声をかけたら
ぴょこぴょこと、元気良くおなかを蹴った。 考えてみたら、この子とこうして、
ひとつの体でいられるのも今だけ。 ちょっぴりさみしいけど、
やっぱり早く顔が見たい！
最近フランツは、毎日「習字」をしている。 赤ちゃんが産まれたら、
その名前を筆と墨で書きたいらしい。 芸術の都パリで育ったフランツは、
この日本の習慣がとても気に入ったようだ。 本人は真剣なつもりなのだけど、
練習している文字は「パパ」と「ママ」・・・。 それに、手も顔も墨で真っ黒！
いまどき、小学校のお習字の時間でも、ここまでのいたずらっ子はいないだろう。
赤ちゃんとフランツ。子供が2人いるみたい。
「習字」を終えたフランツが、ベランダから 「月がきれいだよ」と私を呼ぶ。
早くこの子にも見せてあげたい！ 「見てごらん。お月様きれいだね。」
と言ったら また、うれしそうにぴょこぴょこと、おなかの中で踊りだした。
ワタル君はどーした？！
