>>935
>>939 ボルトケヴィッチの思考のみちゆきを、もうすこしだけ跡づけてみる。

ボルトケヴィッチによる「追加方程式」

 ボルトケヴィッチの見るところでは、マルクスは価格形成を分析するにあたって、
問題となる項のそれぞれが、先行する項によって因果的に規定されているとみなす、
「継起主義」を取っている。この認定そのものの当否は、ここでは措いておく。これ
に対してボルトケヴィッチ自身の手つづきは、一般利潤率と生産価格とを「同時決定」
しようとするものであって、その背後にはリカード流の生産価格論が存在するばかり
でなく、そこではまたワルラス的な一般均衡論との接合という問題関心がはたらいていた。
 さて、見られるとおり、ボルトケヴィッチの生産価格表式において、未知数はx、
y、z、それにrの四個であって、それに対する方程式の数は三である。方程式を解い
て未知数をもとめるためには、もうひとつの方程式を追加しなければならない。ボルト
ケヴィッチそのひとは、貨幣材料である金にかんしては価値と価格の乖離が生じない
ものと想定して、第V部門の奢侈財生産をその金生産により代表させることで z=1と
置き、方程式を追加して連立方程式を解こうとこころみた。
 その帰結は、とりあえず二重である。第一に、いわゆる総計一致命題のうちで、
総剰余価値=総利潤は成立するいっぽうで、総価値=総生産価値は成立しない。
なぜなら、第V部門(そこではz=1と想定されている)の有機的構成は、社会的
平均と一致しないからである。第二に、第四の方程式z=1をくわえて価格表式の
連立方程式を解いても、第V部門の係数はふくまれないから、利潤率の決定にさいし
ては、第V部門の資本の有機的構成は関与しない、ということである。
 ボルトケヴィッチの問題提起と解法は、スウィージーによって紹介されることで
ひろく知られるようになった。そののち、ボルトケヴィッチの追加方程式z=1の
評価(それを承認するか、べつの方程式によって置換するか等々)をめぐって、論者
たちは、いくつかの立場へと分岐してゆくことになるが、ここでは立ちいらない。
 ボルトケヴィッチがあきらかにしたことがらを要約するなら、それは、いわゆる
総計一致命題がきわめて限定的な条件のもとでしかなりたたないということである。
その前提は、すでに確認しておいたように、第V部門すなわち奢侈財生産部門が、
そもそも産出の側にはあらわれるにもかかわらず、投入の側にはあらわれないという
事情にほかならない。このようなそれじたい余剰的な性格
をともなう特殊な財を前提としないとすれば、結果もまたことなってくるのではない
だろうか。


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