京都大学の依田高典教授は
「ハロッドの経済動学は『ハロッドのナイフ』と揶揄されるように、
資本主義の経済成長の安定性に対して疑問を投げかけるものとして解釈されたことが、
一部の自由主義陣営から敬遠されたのではないか」と分析する。

ハロッドとは対照的に、経済成長理論を発展させた大御所として
1987年に順当に受賞したのが、米マサチューセッツ工科大学のロバート・ソロー名誉教授。
「ハロッド=ドーマー・モデル」をたたき台に、資本、労働力、技術進歩の
3つの変数からなる経済成長モデルを作り上げた。

3要素が経済に与える影響をはじき出す数式を考案し、
経済成長への貢献度が最も高いのは新技術であると証明した。
ソロー氏の理論は経済が安定成長を続ける経路を示した「新古典派成長モデル」として普及した。

選考委員会にとってソロー氏は
「安心して賞を授与できる学者」だったはずだが、本人の中では葛藤があった。
ソロー氏は本来、失業や景気後退に関心を寄せるケインズ経済学者であり、
自ら作った成長モデルがケインズ経済学の世界とはかけ離れた理論として独り歩きするのを懸念していた。

ソロー氏はノーベル賞の受賞講演でこう語った。
「技術の記述に焦点を合わせたことには一つの悪い副作用が伴った。
それは、有効需要の問題に私があまりにも僅かな注意しか向けなかったと思えることである。
均衡成長の理論は均衡成長経路からの乖離(かいり)に関する理論を大いに必要としている。
長期と短期のマクロ経済学をどう統合するかという問題は、いまだに解決されていない」