園芸民が異世界転生したらどうするよ?
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園芸民の得意分野で中世ヨーロッパ風の異世界をどう生き抜くか?
どう内政チートするか議論しあうスレです
ただしチートとジャガイモは禁止な 山田シリーズの一遍を考えてみたが
途中まで書いて出来が微妙なので投稿保留中
3行ギャグなら勢いだけで誤魔化せるが
プロットに肉付けすると文才の無さが響いてくるわ
3行以内なら
カンカンカンカンキンキンキンキン(打撃音)
な、なんという強さだ凄いですお兄様そして世界は救われたハーレムEND
って描写でも許される(違 植物の種を何か一種類だけ携えて転生するとしたら何持っていく? >>237
薬用植物か果樹の種かな
葉物野菜は人間がいる世界なら現地のものがあるだろうし日常的に多用する(大量生産が前提)ものなので
貴族や大地主の息子にでも転生して広い土地がないと詰みそう
鑑賞目的にしか使えない植物は社会が一定以上豊かで文化的でないとそもそも需要がないだろうし
実用性があってかつ少量しか生産しなくても十分な利益が得られる植物が望ましい
というわけで自分はブドウ 昨年にリクエストがあったので、挿話その2を投入。
試しにバトルシーン未省略フルバージョンで書いてみたら
投稿サイト3話分ぐらいになった。スレ用に分割して150回弱。
本来なら創作スレでやるか、投稿サイトに出すべきなのだが
せっかくなので2ヶ月くらいかけて順次投入していく。
廃スレを使った壁打ち行為なので生暖かく無視してほしい。
つーか文才あったら最初から投稿サイトで書く。出来は察してくれ。
酷評があったら心が折れて途中で逃亡するかもしれん。
んじゃ行ってみる。 それは、かまいたちが静かに鳴く、ある夜のことだった。
現代日本の園芸知識を持ったまま、とある剣と魔法の異世界に転生し、
ご都合主義と主人公補正で貴族にまで成りあがった一人の男。
中身の人生経験は合計50年越えであるにもかかわらず、前世でも今世でもいまだ
女性経験を持たぬヘタレ、山田準男爵は領館内の自分の寝室で、何か異様な気配を
感じて目を覚ました。
新規読者にフレンドリーな解説的描写である。
寝室の入口横にある魔石燭台から広がる淡い光。その明かりを背にして黒い人影が
立っていた。 驚いた山田は声にならぬ叫びをあげるとベッドから飛び起き、入口から離れた壁に
背中ではりついた。影の正体は魔物か、それともアサシンギルドの手の者か。
防犯警報の魔道具と、複数の魔術結界を設置している領主寝室に、どうやって
入りこんだのだろう。
よく見れば、その影はヒトの影ではなかった。 頭の上に突き出た大きなネコミミ。その形に見覚えがある。
山田領内の猫メイド喫茶で働いている猫獣人の若い娘、略して猫娘。
言うまでもないが、鬼○郎のパートナーの妖怪少女とは無関係である。
しいて言うとアニメ版6期のニャンニャン娘を、もう少し大人寄りに魔改造したと
でも言おうか、少女と大人の境界に棲む優美にして妖しい魔性の獣。
どうでもいいが猫○が着用しているランジェリーが実物商品化されるとか、
恐ろしい時代である。何考えているのかバン○イ。ふざけんなもっとやれ。 山田は一気に体の力が抜けた。侵入者が猫娘なら、命を狙いに来たのではない。
それ以外の危険はあったり無かったりするが、とりあえず置いておく。
彼女はいかなる方法を使うのか、防犯魔道具を回避して山田の寝室に忍び込み
仕事をさぼってフカフカの高級寝台で惰眠をむさぼるのが日課である。
以前は夜中に、狩りで捕えたネズミ的な小動物を枕元に並べに来たこともある。
だが今回は、獲物を口にくわえてはいない。
しなやかな肢体に薄布の夜着をまとい、大きく空いた胸元から控え目に薄く生えた
柔らかそうな体毛が覗いている。 彼女の髪の毛は純白で、オレンジと黒のメッシュが入っているので、おそらく
体毛も同色なのだろうが、薄暗くて色まではよく判らない。
彼女は、ぷるる、と小さく震えると、ヒトとは異質な動きで山田に顔を向けた。
素足が床の上をするりと動き、足音も無く近づいてくる。
薄闇の中で大きく開いた丸い瞳孔。黒水晶のような瞳が、整った顔立ちに映える。
どこか人間離れした、猫獣人の中でも上位に属する美貌。
光の加減でぎらりと一瞬、眼が赤く光る。
秘密めいた怪しく見つめるキャッツアイ。 おっさん連中から緑色に光るんじゃないのか、という突っ込みが入りそうだが、
猫の網膜下反射層(タペタム)の反射色は個体によって異なるのである。
余談だが、某なろう作家の愛猫「翠星石」は金目銀目(オッドアイ)だが
右目が赤、左目が緑に光る。閑話休題。
彼女は山田の前で立ち止まると、「あふぅ」と小さく妙な声を出した。
そして固まっている山田をうるんだ眼でじっと見つめ、山田の体にそっと両腕を回した。
ぎゅ、と抱きしめてくる細い腕。密着してくる華奢な熱い体。薄布越しに
むにっと体に押しあてられてくる、柔らかくそれでいて弾力のある双丘。 猫娘は一旦離れると、今度は山田の胸元に顔をうずめてグリグリと動かし、
くふ、と息を吐いて上目遣いで見上げると、口元を少しゆるませた。
整った口から小さな牙がちらりと見える。猫娘は荒い呼吸をしてから
かわいらしい舌で唇を湿らせると、濡れた唇をゆっくりと山田の顔に近づけた。
そして突如として始まる、情熱的で激しく荒々しい行為。
彼女は山田の鼻の頭を舐めはじめた。
ぞりぞりぞりぞりぞりぞり。鼻が痛い。痛い痛い痛い鼻が削れてしまう。
猫の舌にはオロシガネ状の棘が生えている。バター犬はいてもバター猫がいない
理由がよく判る。
おそらく獣人独特の愛情表現なのだろうが、状況がよく理解できない。 どうも様子が普通ではない。話しかけても返答が支離滅裂で、ヒトであれば
完全な酔っ払いである。何か変なものでも食べたのだろうか。
山田は顔にかかる彼女の熱い吐息の中に、かすかに果物のような香りを感じた。
肉食女子の彼女は、通常は果物など食べはしない。…もしかすると。
山田は毒殺避けに常時装備している「解毒の指輪」を自分の指からはずし、
猫娘の指に嵌めた。効力が発動した時の赤い光が明滅すると、猫娘の体から
力が抜け、くたくたと床に崩れおちた。彼女は機嫌良さげにゴロゴロと喉を
鳴らしたあと、床の上で、もぞもぞと丸くなって寝息をたてはじめた。
その姿を見て、山田は大きくため息をついた。 「これが原因でしょうか」
翌朝、猫娘の宿舎を調べた黒髪美少女メイド(本職)のミヤゲが、かじりかけの小さな
果実を発見した。緑橙色の砲弾型で、内部に黒い小さな種子が散在している。
「タタビの木の実のようだが…」山田は首をかしげた。
タタビは王国内に自生する蔓性の樹木である。その実には猫獣人の性フェロモンに似た
成分が含まれ、猫系の獣人が口にすると特殊な高揚感がある。山田領内でも猫獣人の
ストレス解消用、あるいは媚薬的な効果を期待して販売されているが、その効力は
それほど強いものではなく、効果も短時間で消失してしまうため薬物扱いは
されていない。 昨夜の猫娘の状況を、タタビの影響と考えるのは納得がいかない。
確認のため識別魔法で果実を調べた山田は、鑑定結果に息を飲んだ。
向精神成分が異常に高く、含有魔力も魔力草並みである。普通のタタビと比較した場合
その効力には天然のコカノキの葉と粗製コカインぐらいの違いがある。
「これは…魔タタビだ」
魔タタビ。古代エルフ族が遺伝子工学によって作り出したデザイナーズ・プランツの
一つ。現在では魔薬取締法、および遺伝子操作生物条約カルヘタナ議定書によって
一般流通が禁止されている魔法植物である。 だが、山田が驚いたのは違法ドラッグだったからではない。魔タタビはエルフの里以外では
結実しないとされているからである。王立植物園でも数系統の個体が許可をうけて
栽培されているが、人工授粉で他系と交配しても稀に小さな実ができるだけで、
完熟前にすべて落果してしまう。完熟果実はエルフの里から門外不出とされており、
実物を見たことのあるヒト族がほとんどいない、幻の果実だったのである。
現在ではエルフの里から魔タタビの実を持ち出すのはオーストラリアからカモノハシを
持ち出すよりも難しく、個人であれば合法・非合法を問わずほぼ不可能と言ってもよい。
密輸を試みて発覚すれば種族間問題に発展し、犯人は勇者から直々に討伐される
ような品物である。そんなものがどうしてここにあるのか。
不謹慎な話であるが、山田は植物屋として限りなく興奮を感じていた。 正気に戻った猫娘から事情聴取したところ、魔タタビの実は猫メイドカフェに来た
冒険者風の男性客から貰ったものだという。
「気持ちの良くなる猫オヤツだよ。試してみない?」と言って渡されたそうだが、
天然ボケの猫娘は「ありがとうなのニャ(はぁと)ここで(注文したお茶が出てくる
まで)待っててほしいのニャ」(注:語尾にニャをつけるのは営業用の仕込みである)
と言ってポケットに入れると何か貰ったことはその場で忘れ、客のことを放置プレイで
帰ってきてしまったという。だって猫だし。 夜中に着替えた時にメイド服のポケットから見つけ、味見してみたあと彼女の
記憶は飛んでいた。
というか制服着たまま宿舎に帰ってはいけないと、山田に何度言われたら判るのか
猫娘。着替えを一回で済ませようとしてはいけない。それと下着は着用しろ。
猫娘を酔わせて店外に連れ出し、アレとかコレとかしてやろうと画策していたであろう
男性客は、あとで悶絶したことだろう。それにしても、種族間問題の発端になるような
特殊ドラッグを持ち歩いていた者が、普通の冒険者だとも思えない。 それ以上にドラッグの来歴が問題である。生きた植物には一般的な収納魔法が
効かないため、遠方から時間停止状態で輸送したとは考えにくい。
日持ちしない果実でもあるので、近在で栽培されたものである可能性が高い。
魔タタビはそこそこ大型になる植物なので、魔リファナのように魔法照明を
使って押入れの中で育てたりはしないだろう。おそらく屋外で栽培されたものだ。
領内で人目につかず、なおかつ凶暴な大型魔獣が出没するほど奥地ではない場所。
それらしき候補地をいくつかピックアップし、山田のことが気に入って領内に
住みついているロリっ娘、もとい山田の協力者である伝説の召喚士が使役する
偵察用小型飛竜によって航空幻像調査をおこなった。 その技術を請われて山田領の魔導技術主任にスカウトされた、地球人基準で十代と
言っても通用する外見の知的な美人のお姉さん、もとい元宮廷錬金術師による
幻像解析の結果、東の領境に近いハゲワロスの森の一部が切り開かれており、
昨年までは存在していなかった小屋のようなものが設営されていることが判明した。
ナイスミドルな家令のエンガワが書類を調べてみたが、開拓申請も居住登録も
提出されておらず、あきらかに怪しい。
山田は領主としての使命感と生来の野次馬根性から、暇潰しに一緒について
いくことにした召喚士と共に、魔薬農場だと疑われる場所へ調査に行く事にした。 ハゲワロスの森の周囲には「不可避の大草原」と呼ばれる風衝植生が広がっている。
この草原には地竜という地下棲の魔物が棲息しており、人間が草原に入り込むと
足音などの振動に反応して地中から襲いかかってくる。
一度ロックオンされると、土魔法によって土中を高速で掘りすすむ地竜から
逃げることは難しい。草原には樹木や岩場のような捕食から逃れられる場所
が無く、これが不可避と呼ばれている理由である。 地竜の内臓を取り除いて干したものには解熱効果があり、地竜エキスに加工して
感冒薬の錬成素材にするが、それほど高価な素材ではない。
素材採取の危険に見合う魔物ではないため狩りに来る冒険者も稀で、大草原に
近寄る人間はほとんどいなかった。その中央に位置する森は、魔薬業者の
アジトにはうってつけの場所である。 大草原の外縁にたどりついた山田と召喚士は、王都の魔道士ソーガン卿が開発した
遠視の魔道具で森の状況を観察していた。もし魔薬業者のアジトがあるならば、
うかつに近寄れば索敵魔法で感知され、攻撃されたり逃亡されてしまうかも
しれない。まずは情報収集からである。
「暇だのう。面倒臭いから炎精魔人でも召喚して、あの森ごとすべて灰に」
「ちょ、乱暴な事言わないでくだ…あれ?誰だ、あんなところに…」 はっきりと確認できないが、森の奥から金髪の少女らしき誰かが走り出てきた。
草原の中を走るのは、地竜に「御飯ですよ」と言っているようなものである。
どう見ても正気の沙汰とは思えない。
そのあとを追って、森の中から3人の陸(おか)サーファーが現れた。
陸サーファー(注:原語ではそれに対応する異世界語)とは、地表すれすれを
飛翔するサーフボードのような魔道具に乗り、地面に触れることなく移動する
スキルを持つ者のことである。 3人は少女を取り囲むように移動すると、全員で周囲をぐるぐると回りはじめ、少女の
走りを止めた。少女は疲れ果てたように膝をつき、地面に倒れた。
「行って手助けします!」
「おぬし、どっちを助けr」
「女!」
「あー、そう言うと思ったわ。しかし事情も判らんのに首を突っ込むのか?
終日営業の雑貨屋で万引きした女学生を、店員が捕縛したのかもしれん」
「こんな場所に雑貨屋はないです!それに、どんな事情があったとしても
俺は女の子の味方です!」 「おぬし、かっこいい事を言ってるという顔だが、発言内容に問題があるとは思わんか」
「援護頼みます!山田、行きまーす!」
「おいちょっと待たんか」
山田は少女に向かって草原を走り出した。どう見ても正気の沙汰とは思えない。
走ってくる山田を見た陸サーファー達は、一瞬とまどった様子を示したが
すぐに無言でエアギターの構えをとった。
なんと、陸サーファーはエアギタリスト(原語では以下略)でもあったのだ。 エアギターとはこの世界の魔法技術の一つで、体の前で魔法力を練り上げて
超音波の刃を作り出して放ち、相手を殺傷する魔法である。
人間にとっては無音かつ目に見えない攻撃であり、攻撃者の手の動きを見て
すばやく反応するか、魔法力を感知あるいは妨害するスキル・魔道具を使用
する以外に対抗手段は無い。
男達が体をのけぞらせて、激しくエアギターを奏でた。目には見えないが、
山田に向かって無数の音の斬撃が飛んできているはずである。 山田は護身用の魔導刀「洞爺湖」を抜き放ち、エア斬撃を放った。
エア斬撃とは、魔導武器を使って魔法力でできた斬撃を作り出し放つ、無音の
目に見えない攻撃である。それはまるで、ただの素振りであるかのように見える。
世界樹の枝を加工して作られた「洞爺湖」には膨大な魔法力が秘められている。
目には何も見えず感じられもしないが、すさまじいエア斬撃が空中を走った。
エアギターの攻撃はすべて相殺され消滅した。男達は驚きに目を見張った。
「いきなり攻撃してくるとは、貴様らは悪者で確定だな」
むろん山田に確信があったわけではない。たまたま正解だっただけである。 山田は間髪を入れずエア手榴弾を男達に投げつけた。
エア手榴弾とは、魔法力のみで構築された非物質の見えない「爆弾」である。
「爆発の概念」を相手に投げつけ、物理的な効果を発生させることなく爆発したという
結果のみを生じさせる、いわゆる概念魔法の一つである。
男達が新たに放ったエアギターの見えない攻撃と接触し、爆発の概念がまきおこった。
3人のうち2人は爆風の概念によって体のバランスを崩し、空飛ぶサーフボードから
落下した。すかさず山田がエア斬撃でダメージの概念を与え、体の自由を奪う。 残った一人は概念の直撃をまぬがれ、あわてて体勢を立て直そうとしたが
サーフボードの上で大きくよろけた。
初級の浮遊魔法で体を引き上げようとしたらしく、体の重心が不自然に移動した。
あたかも上半身にハーネスがつけられていて、上方からワイヤーアクション
で引っ張ったかのような動きである。服が変にひきつれて、肩のあたりに
過剰な魔法力が放出された時のモアレ状のちらつきが見える。
修正技術が素人レベルであることが一目瞭然である。 山田はその隙を見逃すことなく、奥義「エア真空斬」を放ち、男を空中から
撃ち落とした。エアにして真空であるが、そういう名前の魔法なので気にしたら
負けである。男は頭から落ちて気を失った。
筆舌ではとうてい伝わらぬ、激しい攻防であった。もし映像化されたならば、
視聴者は壮絶な目に見えぬ戦いに、唖然として言葉を失うことであろう。
山田はほっと息をつき、魔導刀を仕舞い、追われていた少女のほうへと近づいた。
少女は地面に倒れ伏したまま、ぐったりして動かない。
息はあるようだが、無事かどうか確かめてみねばならない。 そう思った時、地面がズン、ズンと振動し、山田から一番離れた場所に
倒れていた男の下がいきなり陥没し、サーフボードごと地中に吸い込まれた。
ギギギギギャイーーーンギャリギャリギャリンッ
ドカシッゴボッグガガガガガガボガボ
ガココココココバキバキバキャキャキャ
ガコッガコッガコッガコッグゴゴゴゴゴ
グモッチュイーーンボゴゴゴゴゴ
固いものをミキサーでむりやり粉砕するかのような、嫌な音が響いた。 続いてその隣の男が悲鳴と共に地面に吸い込まれ、再度グモったらしき音が
聞こえた。謎の動詞はググるな危険。
三人目の気絶していた男が目を覚まして頭を振り、はいずるように動いてサーフボードの
上に乗った。そして空中に高く飛びあがった瞬間、地面を突き破って、ぬめぬめした
腐肉色の円柱が飛びだしてきた。そして円柱の先端が大きく漏斗状に広がり、一瞬で男を
サーフボードごと吸い込んだ。ふくれあがった円柱は、もずもずと動きつつ土中
へと戻っていった。地面の中から何かが砕けていく鈍い音がする。 山田は一歩も動けない。地面から、まだ魔物が潜んでいることを示す振動が
伝わってくる。足音をたてれば、その瞬間に殺(や)られる。
諦めて去っていくまで、どれぐらい時間がかかるだろう。
地球時間で1時間か、半日か、それとも1ヶ月か。
あの金髪少女も、目を覚まして動いたなら即アウトである。
「お困りかな、ご領主殿」
「空飛ぶ座布団」に正座した召喚士が、魔法の瓶から熱いお茶をマイ湯呑に注いで
飲みながら、地表近くをすべるように移動してきた。 「お困りです。助けてください」
「だから言ったであろう。困ったのーこの座布団は一人乗りだからのー(棒)」
「俺が経営してる食堂の定食無料券、1ヶ月分」
「うーんどうするかのー。いつものアレも付けてくれれば考えよう」
「え” もしかして人間椅子?」
山田の顔が引きつった。 「嫌ならいいぞ。邪魔したな、ご領主殿」
「あああああ、判りました人間椅子でも足裏舐めでもいいです。
くっ!俺の背中に、こんな貧相な体の小娘の薄い尻を乗せねばならぬとは!
何という屈辱!」
「ふふふふふ、良いのう、その顔。ゾクゾクするのう何か出そうじゃ」
「いいから早くして」
「ふ、気の短い奴だの」 召喚士は指先で空中に術式印を描くと、召喚呪の詠唱を始めた。
「暗く深き地の底に棲みし盲目の獣よ、わが命(めい)に従い、疾(と)く来たりて
汝に与えられし贄(にえ)を屠(ほふ)れ」
草原に光り輝く巨大な魔法陣が出現し、地響きをたてながら魔法陣の中の土が
盛り上がって小山を成した。 魔法陣召喚。地球の西洋魔術にも召喚術はあるが、西洋の場合は術者の周囲に
魔法円結界を手描きし、魔法円の外に対象を召喚する。術者は召喚中に結界外に
一歩も出ることができず、映像的には似て否なる術である。
魔法陣内に魔物を召喚する様式は、初代勇者の故郷において天才大魔道士ミズキ・シゲル
が創始したもので、彼が考案した「魔法陣」という造語と共にこの世界に広まった
ものだと伝えられている。詳細はググってご確認頂きたい。
召喚の地鳴りに驚いたのだろうか、目鼻の無い腐肉色の、巨大な蛇のような魔物が
山田の後ろの地表を突き破り、土砂を撒き散らしながら地上に飛び出してきた。
あの男達を襲った魔物、地竜である。 地竜は山田の事はもう眼中に無い様子で、いや元々眼は無いのだが、肉質の体を
ばるんばるんと左右に蛇行させ大暴れで草原をハゲ散らかしながら、魔法陣と
反対の方向に人間が走るよりも速く移動しはじめた。
そのあとすぐ、どずん、と突き上げるような振動と共に草原が波打った。
直下型地震のような激しい揺れと共に、地竜に向かって地面の下を巨大な何かが
移動していき、地表に地割れが走った。 そして地割れが地竜の真下まで到達すると、大きく地面が陥没した。
地竜は逃れようとして暴れ、激しくのたうちまわったが土煙と共に巨大な
穴の中に崩落していった。
どこかからギュイーギューィィィ…とくぐもった悲鳴のような鳴き声が響く。
断続的に揺れが続いたが、やがて、ばちゅん、と大きな破裂音がした。
しばらくの間、ぐちゃぐちゃと咀嚼するような湿った音が続いていたが、
やがて聞こえなくなった。 召喚士が再び指で空中に呪印を描くと、地面に巨大な送還魔法陣が光り、
草原には静寂が戻った。
「た、助かりました…何ですか今のは」
「地竜の天敵の土竜じゃ。栄養剤ハニーゼリヲンを与えて、わしが育てた。
ヒトを地竜が喰い、その地竜を土竜が喰う。大自然の理(ことわり)よ」
「喰われた連中の蘇生は?」
「某書によれば、消化されてウ○コになってしまうと蘇生できぬらしい」
「そして肥料となり草木を育てる…ああ、彼らは大自然の輪廻に
還ったのですね…」
山田は名も知らぬモブ男達のために黙祷した。 「今の騒ぎで他の地竜共はしばらく近寄らぬだろう。あの連中の仲間が来たら
面倒ゆえ、今のうちに一旦退却しようかの。…それにしても、おぬしはどうやら
厄介なものを拾ったらしいぞ」
金髪少女を見て、召喚士はそう言った。
くすんだ淡緑青色の農作業服。地球人であれば十代前半というところか。
少し古びた奴隷用の首輪がつけられている。 汚れてはいるが、それでも輝くような光沢を失っていない長い金髪。
透けるような白い肌、ほっそりした体に均整な長い手足、人形のような整った顔。
閉じた目にかかる色素の薄い長い睫毛(まつげ)。
そして先の尖った長い耳。
言わずと知れたファンタジーの定番、エルフ族であった。
プライドが高く、対応を間違うと民族間問題が国際紛争で軍事衝突の人達である。
禁じられた事案にいけない興味を持つと逮捕されてしまう、危険が危ない種族である。
洋炉?その単語は何のことかよく判らない。 ともあれ『少女』は領館の療術室に運ばれ、美人錬金術師が鑑定魔法で容体を識別した。
療術は専門外なのだが、とりあえず一次救急、状態確認である。
「で、この子の状態は?」
「栄養状態が良くない以外には問題なさそう。あ、それと識別結果だと『女の子』
じゃないわよ。こういう外見だけど、ヤマダより年が」
「ああああ、それ以上言わないで!いいの女の子で!
見た目が女の子なら女の子!女の子って事にしておいて!
事件のヒロインは可憐な少女でないと話が盛り上がらないから!」
「…まあ、ヤマダがそう言うならそれでもいいけど、何なのその拘りは」 「ウゥ…」
「お、目を覚ましたか。あー、ごほん。ご気分は悪くございませんか?」
「தภา¥ษา!$ไทยமி яę*ы@к^ëழ்#!!!!」
「おぅ、全力で警戒している!汚物を見るような冷たい目!
鈴をころがすようなかわいい声だけど、意味が判らない!」
「エルフ語よ。種族依存言語だから、翻訳スキルが無いヤマダには
言語化けして聞こえてると思う」 「何と言っているんだ?」
「うーん、俗語表現なので、うまく翻訳するのは難しいのだけれど…」
「おおまかな意味だけ判れば」
「“私に接触したとき、性欲の抑制が不自由な進化の途上にある野生哺乳類には
実力が行使され、男性生殖器が強制的に躯体から分離されるでしょう”」
「なんか、すっごく可憐でない発言らしい事は理解した」 「いや、言葉は判らなくても、きっと通じ合える…コワクナイヨー。
ワタ−シ、アナータ、トモダーチ。えーと、汎種族語…
キエテ・コシ・キレキレテ」
「君ノ汎種族語ハ、判リニクイ」
「おぅっふ!、王国語が話せるのか!それなら最初から言って!」
「大丈夫ですよ。ここにおられるのは山田領のご領主様と、お若いけれどとても偉い
召喚士様。この方々が、エルフ様を悪い人達から助けたのです」
「助ケタ…?アナタ達、悪イ人間、違ウ?」
「そうです。ですから安心してください」
エルフは少し表情をゆるめたが、あらためて山田と召喚士を見て複雑な顔になった。 「…領主様、背中ニ、召喚士様、座ッテイル。何故?」
「あー…え〜〜と、これはですね、特別な事情があると申しますか、う〜〜んまあその…
エルフ様をお助けする時に、ご領主様が背中に特殊な魔法攻撃をうけてしまって
召喚士様がその治療をなさっておられるのです(嘘)」
「ソ、ソウナノカ…倒錯行為、勘違イ。怪我、私ノセイ、スマナイ」
勘違いではないが話を進めよう。
「私は山田領勤めの錬金術師、ファナと申します。エルフ様のお名前は?
お嫌でしたら無理には伺いませんが」
「…ミライア・カリ。森えるふ族。花守リ(はなもり)ノ一族」 「なななな、花守り?あの伝説の?それじゃエルフの里の花の話をですね」
「ごめんヤマダ、その話は後で、ね?」
「う、確かにそういう場合では…おおっと、すまぬが錬金術師殿、今は人前というか
エルフ前であるがゆえ、ほれその、お判りであるな?」
「あ、ごめ…げふん、失礼いたしましたご領主様」
召喚士が、何やってるんだ、という顔でため息をついた。
「おぬしら、あいかわらずどっちが領主でどっちが家臣だか、よく判らん感じだのう」 セイジュンとかいう極悪プラントブローカーが出てこないかな 「それはその、錬金術師殿は俺、じゃなくてわたくしがこの国に来た時、スライムに捕食
されかけてボロボロになっていたところを助けてくれた、命の恩人でありますゆえ」
「当初は私のほうが身分が上で、ご領主様はただの居候で、その関係の名残というか」
召喚士は苦笑しながら、二人の顔を見比べた。
「考えてみれば餓死寸前で拾われた、身元不明の怪しい男がずいぶん出世したものだの。
まあその話はどうでもいいが、ご領主殿、錬金術師殿の邪魔をするでない。
しばらく黙って床の皿から水を飲んでおれ。わしが良しと言うまで、そのまま
背中でわしを支えていろ。おぬしの出番はもう少し後だ」
「く〜〜ん(泣)」
「アナタ達ノ身分関係、全然判ラナイ。ケレド、ナントナク、力関係、判ッタ」
この人達の関係は考えてもよく判らない。考えるのではない、感じるのだ。 「?…首輪ガ無イ…」
「ああ、『隷属の首輪』ですね。邪魔そうだったので外しました」
エルフは驚いた顔で目を丸くする。
「外シタ?ソレ、無理ニ外ス、死ンデシマウ。
死ンダ時、蘇生デキナクスル、呪イノ首輪」
「管理者権限の術式を書き換えて、普通に外せるようにしました」
錬金術師がにっこりと微笑む。
「??? 術式、暗号化。多重防護、改変デキナイ」
「最新の量子術式でもないですし、術式の脆弱性を突けば普通に上書き
できます」
「イヤ、ソノ理屈ハ、オカシイ」
エルフは混乱している。 「外シタ首輪、ドコ? アノ首輪、固有魔力、発信スル。
私ノ位置情報、アイツラ判ル。キット今日ノ夜ニモ、連レ戻シ、来ル」
「はい、そうではないかと思い、首輪だけ別の場所に移しておきました。
いつ来ても心配はありません。むしろ来い? うふふふふふ」
「何ソレ怖イ」
「それよりも、あいつらとは誰です?さしつかえなければ、何があったのか
最初から教えていただけませんか?」
エルフは錬金術師から時々さしはさまれる質問に答えつつ、自分の事や、
これまでに何があったのか、知っている事を語り始めた。 花守り。森エルフ族が過去に品種改良によって作り出した栽培植物を保全育成
している、特定家系エルフの世襲職である。
魔タタビも、花守りが管理対象としているエルフの秘木の一つである。
門外不出とされてはいたが、長い年月のうちには何本かの魔タタビが、エルフの
里から外に持ち出されていた。ほとんどの場合、植物園や大貴族の庭園で厳重な
監視の下に栽培されていたが、そこからさらに枝が盗みだされ、挿し木などで増殖
されて闇市場に出回ることがあった。しかしそれらが結実したことは一度もないと
言われ、そのため今までは大きな事件に発展した事はなかった。 ところが、その魔タタビを闇ルートで買い集め、魔タタビ農園を作り上げた男がいた。
陸(おか)海賊の頭目、賞金首のニシューハ・タシェジューンである。
陸にいたら海賊ではなく陸賊、あるいは山賊か盗賊ではないのか?と思われる
かもしれないが、この世界ではそういう呼び名なのである。宇宙にいても宙賊ではなく
宇宙海賊である。魚で言えばトゲナシトゲウナギ。ちょっと違うか。
世界一のトレジャーハンターを自称し、「炎上のニシューハ」という二つ名を持つ
この頭目は、世界各国で数多くの略奪を繰り返している悪名高い人物である。
念のため申し上げておくが、これは異世界の物語であって地球に存在する人物・
団体等とは無関係である。 彼はもともと古い陸海賊の家系であったが、ある日、大頭目である父親と意見が
対立して大喧嘩となった。そして配下の一部を引き連れて実家を飛び出し、新たな
陸海賊団を結成した。その後、あちこちの都市を襲って炎上させ、何をしでかすか
わからぬ男として恐怖と共に語られる存在となっていた。やがて、ある野望の達成
にむけて遠大な計画を練り上げ、それまでに蓄財した資金を使って、闇に隠れながら
行動を進めていた。
繰り返し申し上げるが、地球のどこかに似たような経歴の人物がいたとしても偶然の
一致である。そしてこの頭目はここから当エピソードのラスボスとして醸成されていく、
完全なるオリジナル設定のキャラである。 って、さらっとネタバレ来たコレである。
地球の人の話なんかしてる場合じゃねえのである。 頭目の野望ロードマップ第一段階、それが魔タタビの大量生産であった。
量産化に成功した暁には、頭目は真の目的に向けて行動を開始する予定だった。
その目的とは猫獣人の里を急襲し、魔タタビの洗脳効果によって住人すべてを支配する
電撃的侵略計画である。反抗する雄獣人は皆殺しにし、すべての猫女子を魔タタビに
よって従順な奴隷と化し、思う存分モフり放題、やわっこいお腹に顔をうずめて
猫吸い放題やりたい放題の猫まみれ王国を築く。それが頭目の野望だったのである。
冬のお布団の中で猫ハーレム開催は全世界の男の夢、モフモフ王に俺はなる!
そういう願望を抱くのは一部の人だけですかそうですか。 こうして誰も近寄らぬ「不可避の大草原」の中央にある森に魔タタビの苗が集められ、
配下の者達のブラックな農業研修生活、もとい地上の星になることを目指した挑戦者たちの
新しい農業プロジェクトが始まった。ガイアの夜が明け、下町の町工場がロケット開発を
試みるよりも困難な異業種への参入である。
当然ながら新規就農は順調にはいかなかったが、試行錯誤の末に魔タタビの苗が
どうにか育てられるようになった。ついに開花もしたが、まったく結実しない。
戦いと略奪のみに生きてきた彼らは栽培に関しては素人であり、人工交配という
言葉すら知らなかった。 というか、むしろ素人なのに育てあげてしまったことのほうが驚きである。
頭目の壮大な夢に向けた尽きぬ情熱と、脅迫もとい心情に応えた配下達の命がけの
努力があったからこそ成しとげられた事である。
だが、そこから先に進むにはどうしたら良いか、彼らには判らなかった。
しかし頭目は、そうなることは最初から織り込み済みであった。
自分にできない事は他人にやらせれば良い。自分でやろうと思うのが間違いであると。
面倒な事は誰かに丸投げし、成果と利益は自分が総取り。強き者にはその権利がある。
自分に媚びて従う者は利用して絞りつくし、従わぬ者は容赦なくこの世から消す。
それが頭目の考え方であった。 大樹ユグドラシルが魔科学兵器で枯れそうとな世界に転生した園芸民ダオス >>302
(予告編)
大樹ユグドラシル。世界樹の名で知られるエルフの聖なる木。その神木を切り倒し、
冒険者用のバングルに加工して売りさばく邪悪な企み。首謀者ニシューハが操る
古代ワトランティス文明の魔科学兵器「発掘陸戦艦」がエルフの里に迫る。
花守りミライアを助けるため、山田は神にも悪魔にもなれる黒鉄の城の封印を解く。
次回「世界一の巨木」
アナザーストーリーはこれ以上続かない。
>>303
ww 魔タタビは、エルフの里の花守りが、特別な方法で世話した時にのみ結実すると
言われていた。その手法は花守りの一族にのみ口伝で伝えられており、森エルフで
あっても花守り以外は詳細を知らないという。
ならば、花守りを誘拐してきて魔タタビの世話をさせれば実が成る。頭目はそう考えた。
ものすごく短絡的な思考であるが、あながち間違いとも言えない。短絡的でも実行して
みたら結果的に正解、という事もあろう。だが今回は「実行」の部分に難があった。
そもそも陸海賊達のように犯罪歴のある者は、エルフの里への入里許可が出ない。
仮に里に入り込めたとしても花守りの居場所は非公開で、どこに行けば会えるのか
情報が皆無である。 さらに結界の通行門を通って里を出る時にも、厳重な出里審査と所持品検査がある。
常識的に考えて誘拐などできるはずが無いのだが、頭目達にとって偶然と幸運が重なった。
それは山田領が所属する王国領邦で、昨年度に55年ぶりに開催された万国博覧会の時
であった。その際に森エルフの出展パビリオンに魔導植物が展示され、エルフの花守りが
解説係として駐留したのである。
頭目は、その千載一遇の機会を逃さなかった。 万博開催中のその日、王国の北方海上でタラ魔蟹の密討伐をしていた冒険者の
一団は、海域に異常な魔力の乱れを察知した。
雲一つ無い青空に白い雲の渦が生まれ、徐々に大きくなり、やがてそれは
黒雲渦巻く空の大穴と化した。
その中から雲の尾を引きながら、ゆっくりと沈むように降りてくる巨大な
卵型の塊。表面に血管のような筋が走っている。
全体が姿を現すと魔法力でそのまま空中に留まり、やがてその輪郭が
もぞり、と動いた。人工物ではない。何か大型の生き物だ。 塊の上端がほどけ、蛇のような無毛の首が持ちあがって眼が開いた。
血のように赤い虹彩に、縦長の瞳孔。鋭角に尖った口に並ぶ、サメのような鋭い歯。
頭頂部は平坦で、後方に向かって耳にも角のようにも見える突起が突き出た
矢尻型の頭。
魔物は丸めていた体と尾を伸ばすと、準備運動のように鉤爪のある下肢を
軽く動かした。そしてゆるゆると、コウモリに似た指骨のある膜質の両翼を大きく広げた。
龍種。「人喰い」と呼ばれる凶悪な大型魔獣、飛龍(ワイバーン)である。 大騒ぎになった船上の冒険者達には目もくれず、飛龍は翼に風魔法を込め、
飛翔体勢に移った。そして瞬時に目にもとまらぬ速さで飛び始め、一瞬だけ
水蒸気の円錐を纏ったのが見えたあと視界から消え去った。
爆発的な衝撃音が冒険者達のところに届き、彼らは鼓膜を破られて転倒した。
これが事件の始まりだった。 「北方海上に転移門反応。所属不明の飛翔体が領空内に侵入。
魔力識別…ワイバーン!!王都方面に南下中」
「転移だと!!そんな大呪文、無許可で誰が使ったんだ! 戦争でも始めるつもりか!!
しかもワイバーンだと!勇者案件じゃないか!!!」
「高度32000、速度720、なお南下中。要撃飛翔士、上がりました。
百里204騎士団よりウィザード03、ミサワ303聖教会からプリースト21。
ウィザード03管制下に入ります。会敵予想時刻2の刻04」 「目標の進路は」
「なおも南下中。大森林上空を通過…万博会場に向かっています!」
「勇者様に緊急連絡、最優先だ。王宮への報告は後でいい。イルマ地区の第一高射
魔砲群に発令、ただちに迎撃態勢。極大魔法および追尾式噴進弾の使用を許可する。
会場に到達させるな。墜とせなくてかまわん。
勇者様が来るまで持たせろ。何としてもだ」 だが要撃の飛翔士達は飛龍の進行を止められなかった。大空を自らの領域とする魔物は
空を飛ぶのがやっとのヒト族など、遊び相手としか思っていないようだった。
飛龍が雲を切り裂き、天空を駆ける。
高速水平飛行から上方に90度垂直旋回、空中停止して木の葉落とし。瞬時に
再加速して追尾式魔法弾を回避しつつヴァーティカルローリングシザーズ。
かと思えば瞬間停止と瞬間加速で残像分身を残しつつ真横に滑って左捻り込み、
飛翔士に向かって神速の牙突。相打ち狙いの大呪文を察知すると即時に上方宙返りに
転換し後方かかえ込み2回転2/3ひねり、高速ハイドロブレーディングで回避軌道を
華麗にフィニッシュ。 空力魔法、重力魔法、慣性魔法を駆使し、物理法則を無視した動きで空間を自在に
舞う変態軌道(エキゾチック・マニューバ)。
見る者に息をもつかせぬ空中サーカスである。
飛龍には地球の鳥類の気嚢のような呼吸システムがあるので、空気の薄い高々度でも
活動が可能である。一方でヒトは高度が上がれば酸素錬成が必要になり、それだけで
激しく魔力を消費する。さらに空気抵抗の多い人間の体を飛翔させつつ魔法戦を行う
のである。上位の飛翔士であっても短時間で魔力切れになり、次々に戦闘から脱落
していった。 空に残った飛龍は飛翔士達を誂(からか)うように、長く尾を引く飛龍雲で青き大空に
ラブサインを描く。
飛翔士達との「遊び」を終えた飛龍はそのまま南下。高々度を飛行する飛龍には
地上からの高射魔法が到達せず、王国自慢の追尾式噴進弾も飛龍の龍息(ブレス)
により一撃で破壊された。絶対防衛線を突破した飛龍は、万博会場上空に達すると
急降下して会場を強襲した。
とはいえ王国も無策では無い。こういう世界であるから、こんなこともあろうかと予想
していた工作班長の指示によって、万博会場は強固な防御障壁に包まれていた。 前回の万博時と同じように、空飛ぶ大亀怪獣を倒す大魔獣が襲来しようが、
光の巨人と互角に戦う古代怪獣が近在で城を破壊しようが、万博に影響はない。
安全安心、鉄壁を超えたオリハルコン壁の防護体制である。
が、来場者のほうは安全と言われても安心ではなかった。
轟音を立てて障壁に体当たりし、紫電色の干渉波を散らす巨大な龍種を見て
大パニックが発生した。
来場者達は血相を変えて逃げ惑い、係員の誘導など聞きはしない。それ以前に
係員も警備の騎士団も一目散に逃げ出した。
まあ怖がるなというほうが無理がある。戦っても勝てる可能性は1ミリも無く、
もし喰われればその末路は○ンコである。 障壁内には何の影響も無かったにもかかわらず、逃げる者同士で突き飛ばしあい、
転倒した者が踏みつけられ、死者こそ出なかったものの大勢の負傷者が発生した。
まもなく勇者の一行が到着すると、飛龍は間髪を入れず全速力で索敵不能空域
へと飛び去り行方をくらました。この事件の詳細は関係者に箝口令が出され、
王国民には勇者が野生のはぐれ飛龍を撃退したと報道された。防衛責任者の
騎士団長が更迭され、第二席の女騎士が昇格して表向きには「事象」は収束した。
事件を事象と呼んで問題はおきていないことにする。王国官僚の得意技である。 このパニックの最中に、一人の森エルフの花守りが行方不明になっていた。しかし
それについては民族間紛争を避けたい王国官僚と、管理責任を問われたくない
森エルフ現場長によって、里の外の世界に触れたエルフが「家出」をした
という報告書が作成され、行方不明の件は揉み消された。
実はこの事件をおこした飛龍は、陸海賊頭目が転移呪文を使って送り込んだ、彼の使役獣
であった。派手な万博襲撃はただの搖動であり、真相に気づかせぬための目くらましに
すぎなかった。騒ぎの最中に、陸海賊の手の者が花守りのエルフを誘拐する事が、
真の目的だったのである。 誘拐された花守り、ミライアには反抗や逃亡ができぬよう隷属の首輪が嵌められ、
大草原の中央の森で魔タタビ栽培に従事させられる事になった。
そして万が一、勇者案件となった場合にも単純な、もとい純粋な心をお持ちの勇者様に
ご説明すれば納得していただけるように「奴隷ではなく、外国人の農業技能実習生である」
という形式が整えられた。そして労働に対して報酬も支払われたのである。
とはいえ、それは実質的には報酬と呼べるものではなかった。
周知のように近年は、通常の契約奴隷・派遣奴隷に対しての報酬は個人所有魔石
への魔力振込みという形式がとられる事が多い。しかし今回の場合、報酬として
与えられたのは頭目が作って「ペリーカ」と名付けた、紙製の商品引換券であった。 この券は農場内において実際に商品と交換できたが、実態はただの紙切れである。
しかも支払われた報酬から実習費・施設利用費・食費・光熱魔力費などが差し引かれ
実際に手にするのは全報酬の1割以下であった。ちなみにこのような報酬様式は
地球においても各国に現実に存在しているもので、日本でも古くは江戸時代の「鉱山札」、
現在も一部のブラックな職場で形を変えて引き継がれている搾取方法である。
食事は支給されたが、食材の多くが昆虫や土壌生物で、エルフ族の口に合う食物は少なかった。
手元のペリーカは全額を穀物や芋類と交換したが、満足できるような質・量にはならなかった。
やむなく花守りは森の中で食べられる植物を採捕したり、農地の隅で自分用に食用作物を
育成せざるをえなかった。 農場ですべき仕事は実質的に魔タタビの交配作業しかなかったので、監視付きでは
あったものの、森の中であればほとんど自由に行動できた。その自由時間を花守りは食料にする
野生植物との戦闘や解体・剥ぎ取り、作物類の放牧・調教のために使うことにした。
その結果、夜以外に寝ている余裕は無くなり、起きている時間の4分の1以上を労働に
費やす事もあった。望まぬ仕事をしなくても良い日は4日に1日あれば良いほうだった。
自発的であったとはいえ、エルフ基準では奴隷以外の者がこのような労働をする事は
考えられなかった。労働が深刻な健康被害をもたらす行為であることは、誰もが
知っている明白な事実だったからだ。 趣味や娯楽から逸脱した就労は緩慢な自殺と同義であり、知性のある種族がする行為
では無いと見なされていた。現実には奴隷落ちしている者も存在してはいたが、それは
犯罪奴隷や債務奴隷、美形貴族の家畜人に志願した者など、例外的な事例に限られていた。
花守りの農場生活は、エルフの里であれば労働基準監督士に訴えられてエルフ権問題になる
ほどの過重労働であった。しかし生きるためには仕事を続けねばならなかった。精神的にも
肉体的にも過酷きわまりない、非エルフ道的な労務が続けられた。
やがて農場で魔タタビの花が咲きはじめ、花守りは交配作業を強要された。
大量の魔タタビが結実すれば頭目は最終目的にむけて行動を開始し、大勢の
獣人達が命を落とすだろう。 しかし、もし結実しなければ、エルフの里に飛龍がさしむけられて花守りの家族が
襲われることになると通告されていた。
やむなく花守りは数果実だけを結実させ、気候の違いがあるため、それを把握する
のに時間がかかると説明した。頭目は納得していない様子ではあったが、それでも
初めて手にした魔薬の実に上機嫌で「こいつの効力を試す」と言って、どこかへ
果実を持っていった。
猫メイドカフェに魔タタビを持ち込んだのが何者であったか定かではないが、
頭目が猫美少女をモフれる機会を誰かに譲る理由は無い。 猫娘に魔タタビの実を渡して放置プレイをされた残念な男が誰であったかは、想像するに
難くない。どうも策士が策に溺れたという印象である。
実を渡した花守りは悩んだ。今回はこれで誤魔化したが、この次は魔タタビを量産
しなければ許されないだろう。かと言って量産したならば、その時にはーー
悩んだ末に花守りは農場から逃げ出した。そして森の外へと走った。
草原で自分は地竜に襲われるに違いない。だが自分がこの世から消えれば、
問題はすべて解決する。花守りはそう思ったのだ。 「…デモ、ヤツラニ、見ツケラレタ。ソレ、私、領主様ニ、助ケラレタ」
「だいたい判った。つまりその頭目をやっつければ問題は解決するんだな?」
「無理。頭目、飛龍、使ウ。飛龍、倒セル、勇者様ダケ。領主様、勇者違ウ」
「うーん、ご領主様には荷が重いかもしれませんね。勇者様に依頼するのは個人では
難しいですし…召喚士様なら倒せますか?」
「ふむ、飛龍とはなかなか大物だの。わしの手持ちの最強級召喚獣でも
単独召喚だと無傷で倒すのは難しいな」
「無傷でなければ倒せると。というか、単独ではなく複数召喚も可能なのですか?」 「最強級だと3匹ぐらいが限度かの。魔力補充すれば魔獣総進撃もできぬ事はないが」
そう言って召喚士はメイドのミヤゲが持ってきた熱いコーヒー的な飲み物をすすり、
召喚士以外の全員の顔がちょっと引きつった。
余談であるが、この異世界コーヒーは山田領に出入りしているジャコウネコ獣人の
エキゾチックで色っぽい綺麗なお姉さんが、秘伝の製法で加工した豆を使用している。
地球で最高価格のコーヒー、麝香猫珈琲(コピ・ルアク)に相当するもので、
貴族しか飲めぬ高級品である。あ、そこの君、製法に興味を持たないように。
「ちょっと待って。ここはこの山田がですね、一肌ぬいで悪者を倒す流れで」
「は?ヤマ…ご領主様が?その意気込みは評価しますけれど」 「むろん俺にはできん!だが俺にはできなくても、お前なら必ず何とかする!
俺の事は信じなくてもいい!お前はお前を信じるんだ!俺が信じるお前を信じろ!」
「…意味が良く判りませんが、なんとかしてくれと言うのは伝わりました」
やれやれ、またか、という表情で錬金術師は立ち上がった。そしてエルフにゆっくり
休んでくださいね、私は今から準備がありますので、と言って部屋から退出していった。
そのあと山田の背中から降りた召喚士に、良し、と言われた山田が腰を
さすりながら立ち上がった。あとでメイドに身の回りの世話をさせます、
あなたは私が助けますから心配しないでください、と告げてエルフに会釈的な
挨拶をし、つまづいて盛大にコケたあと、あわてて錬金術師の後を追っていった。 残されたエルフは、状況がよく飲み込めないという顔で固まっていた。
「ドウシテ、私、助ケル?助ケテモ、私、えるふノ秘密、アナタ方ニ、教エナイ。
アナタ達、戦ウ、無益、意味ガ無イ」
「いや山田殿は、助けた代償に秘密を教えてもらおうとは思っておらんだろう。
くだらない、意味がない、そういうモノやコトほど面白い、とても良い。
あやつはそういう考えで動いておる奴だからの。損得や名誉を勘定に入れて
おらぬのは、この国の貴族としては異端すぎる」
召喚士は山田が立ち去ったほうを見ながら、独り言を言うかのようにつぶやいた。 「それとな…あやつは自分の領地に来た者は、笑顔にして国に帰そうと努めている。
花守り殿だけではない、泣いている者を見た時には全力で助けようとする。
そういう時、あやつは自分では気付いておらぬようだが、見ていてとても苦しそうな
顔をするのだ。気の毒だから助けたいというよりは、助けなければ自分が救われぬ、
という感じでな…何というのか、まるで過去の贖罪でも求めているかのように見える」
「ショクザイ?…悪イ事ヲシタ、罪滅ボシ?」
「いや、そんな風に見えてしまう、というだけだがな。実際のところは、あやつが昔の事を
あまり語りたがらぬのでよく判らん。まあ理由はともあれ、益の無い事を領主自身がやるのは、
二重にくだらないし意味が無い。だからこそ、それはあやつにとって二重に面白い事なのだろう。
花守り殿にはご迷惑だろうが、あやつの道楽に付き合ってやってくれんか」 「…人間ノ思考、理解デキナイ」
「いや、あやつが変なだけだぞ?わしもあの阿呆の事をいまだに理解できん」
そう言って召喚士は面白そうにクスクスと笑い、肩をすくめた。
夕刻、山田領領館内の応接室。
遠方の光景が見られる「魔法の鏡」が多数運び込まれ、各種の魔道具を設置した
応接室は今までとは似ても似つかぬ内装となっていた。実写映画であれば
HGP明朝Eフォントで「山田領領館内 作戦本部司令室」とテロップが入りそうな
雰囲気である。
「『隷属の首輪』は新魔道具・射爆実験場の実験用家屋に運びこみました。
あそこに陸海賊の一味を引き寄せ、戦って殲滅します。
その状況はこの部屋で、有線で確認できます」 「有線トハ?」
「水晶を錬成した細い糸を使って、光学魔法を遠くから引いてくる技術です。
雷撃魔法を銅線で誘導するようなものですね。
音声も有線ならば、魔素の影響無しに双方向で届けられます。
現場のヤマダさ〜〜ん、聞こえますか〜〜?」
魔法の鏡に山田の姿が映った。
「はいこちら山田。有線会話機の感度良好。索敵魔法に反応があれば指示を頼む。
実験家屋内での戦闘待機を続ける」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています