小平邦彦『ボクは算数しか出来なかった』(岩波現代文庫)

「私は大正4年3月に東京で生まれた東京人である(P1)」
「私が幼少の頃、東京には至る所に貸し家があり、両親はしばしば引っ越したらしい。
私の最初の記憶は品川の御殿山に住んでいたとき、祖父に抱かれて汽車を見に行ったことである(P1)」
「つぎの記憶は、小石川の巣鴨の駅の近くの貸し家に引っ越してからである。はっきりとしたことはわからないが、私が4−5歳のときのことであったと思う。
ここには大震災の翌年、私が小学校の4年生になるまで住んだ(P1)」
「6才のとき私立の帝国小学校に入学した(P2)」
「私が小学校の4年生のとき、現在の中落合の住所に引っ越した。
今度は貸し家ではなく、父が文化村と称する分譲地の一区画を買って新築した二階建ての家であった(P4)」
「当時の落合は東京の郊外で、空き地が多く、哲学堂から中井駅の近くまで西武新宿線の両側は広い野原であった(P4)」
「私は小学校を卒業すると五中(東京府立第五中学校、現在の小石川高校の前身)に入学した(P15)」
「私は中学5年のとき一高の理科乙類(イ)を受験した。乙類というのはドイツ語を第一外国語とするという意味である(P26)」
「昭和10年、私は一高を卒業し、東京大学の数学科に入学した(P30)」

解説 上野健爾(P179)
本書の著者小平邦彦は我が国初のフィールズ賞受賞者であり、20世紀を代表する数学者の1人である。
本書は天才数学者がどのようにして誕生し、活躍していったかを自らが記した貴重な記録である。