照葉樹林文化とは、プレ農耕段階(照葉樹林採集・半栽培文化)、雑穀栽培を主とする焼畑段階(照葉樹林焼畑農耕文化)の文化と考えます。
照葉樹林文化の中心と見られる東南アジア北部から中国西南部の地域の特に少数民族のもとでは、モチゴメやモチアワなどの比重が大きくなり、
さまざまなモチ製の食品が出現するようになります。広い竪杵の分布域の中で、東アジアの照葉樹林帯のごく一部に限られて分布する横杵、
その分布域こそが、モチ文化の核心地域となっているように思われます。

モチの次にスシの原型と考えられるナレズシが、やはり照葉樹林帯とその周辺に点々と分布しています。
世界の酒は、1. ブランデーやぶどう酒のような自然の酵素で発酵するもの、2. ウィスキーやビールのように麦芽の酵素を用いて発酵させるもの、
3. 麹というカビの塊を用いて発酵させる酒があります。

この麹を用いる酒は、照葉樹林帯を中心に東アジアに広く分布します。

照葉樹林文化に共通する物質文化は以下のようなものがあります。
水晒しあく抜き技法、発酵茶、絹糸虫の繭からの製糸、漆器、柑橘シソ類の栽培、麹発酵酒、納豆などの大豆の発酵食品、
ナレズシ、コンニャク、雑穀稲のモチ種、オコワ、チマキ、モチなどのモチ性の儀礼食品、
高床の吊り壁、雑穀イモ類の混作焼畑、山の神信仰、歌垣や鵜飼の慣行、天の羽衣説話、死体化生神話などです。

照葉樹林帯には多くの民族が住んでいるが、その生活文化の中には数多くの共通の文化要素が存在する。
ワラビ,・クズなどの野生のイモ類やカシなどの堅果類の水さらしによるアク抜き技法、茶の葉を加工して飲用する慣行、
マユから糸をひいて絹をつくり、ウルシノキやその近縁種の樹液を用いて漆器を作る方法、
麹(コウジ)を用いて醸造することがその主なものである。

照葉樹林文化は、水田稲作に先行する文化であり、水田稲作を生み出し、稲作文化を作り出す際のいわば母体になった文化だといえる。