ブレイディ・みかこさんの気風の良さが好きで『そろそろ左派は<経済>を語ろう』を読んでしまったよ。
筆者も齢で、まさにオールド・ケインジアンだから、資本主義の擁護者になるわけだが、世の中がどんどん右へ行ってしまい、
昔は保守本流のど真ん中にいたのに、いつしか左に位置するようになった。国民のための経済を語らなくなったのは、
右派も同じだと思うな。

 筆者の信条は「経済成長を実現し、福祉国家を建設する」である。これは、高度成長期には、自民党の党是だった。
今の世の中は、「経済成長はムリだから、福祉国家を抑制する」になり、果ては、「経済成長のため、福祉国家を圧縮する」なんて
倒錯した主張まである。

アベノミクスは、登場時の2013年に、金融緩和で極端な円高を是正し、財政出動で景気を好転させた。その後の消費増税は
失敗だったが、責任の半分は、路線を決めた民主党政権にある。これに懲り、ずるずると緊縮をしつつも、消費増税を先送りし
続けたことが選挙での大衆的人気と今の景気回復へつながった。憲法や安保に関心が薄く、政治の信義より目の前の暮らしという
人々にとっては、こんな「反緊縮」で十分なのだろう。むしろ、問題は、他には緊縮をしそうな政治家ばかりであり、
野党と言えば、地べたの人のための反緊縮でまとまれず、ハイポリティクスでの離合集散に忙しいことかもしれない。

 経済を語り始めたばかりのようで、『そろ左派』に具体策は見られないが、そこはブレイディ・みかこさんの務めではあるまい。
「反緊縮」と言っても、消費増税の先送りくらいなら、現政権がカードとして使って来ることは容易に予想がつく。これを超えたければ、
魅力ある社会保障でも考えてはどうか。第二次世界大戦に勝利したチャーチルから、労働党が政権を奪えたのは、
ビバレッジ報告があればこそだろう。