謹んで按ずるに、陛下の攘夷の御志は弘化年来、終始画一の御事、今日といえども潜らせられ候御儀はあらせられずと存じ上げ奉り候ところ、
去秋以来御撓みあそばされ候よう相疑う儀これあり、民を恤(あわれ)むの儀は御天性にわたらせられ、猶更御深切にあらせられ、
裏々島々の小民まで艱苦を致さず、億兆安然として、その所をえざるものこれなきようとの御素志にあらせられ候えば、普天率土、誰か感戴し奉らざらん。
しかるに交易に害にて、僻土に至るまで一民も疾苦を免るる者これなく、殊に輦轂の下にては殺気悽惨、人心恟々、朝に夕を恤ずとも申すべく、
じつに恐れ入り候次第に御座候。
そのゆえんを相たずね候に、松平肥後守の所為に御座候。肥後守はその性剛服にて、庸劣、名文等を相弁えず、また家来共も奥州の荒僻の
寒土に候えば、ただその威を張り、城市を虐げることのみにして、天朝の貴きところ、叡慮のかくも有難くあらせられ候御事をも相弁じ申さず、
縉紳を欺き、義士を忌み、昔時の山法師の悪業よりも甚だしく、その罪を数え候に、十指を屈せずといえども、その大なるもののみあげ候わば、
去年八月、調練を叡覧あそばさるべく仰せ出だされ候節、調練には不用の野戦砲数挺を御花畑へ相運びおき、劫喝のために相備え、
同十八日未明に、御築地内をも憚らず連発仕り、禁闕へ押し入り候こと、これ大罪の一つなり。
関白鷹司公並びに三条殿以下、当時勅勘を蒙られ候御国事掛、寄人らの御方まで、いずれも国家の柱石にいらせられ、聖明を御輔佐
あらせられ候ところ、その大徳、高才、純忠、至誠を恐れ入り奉り候より、百万讒毀(ざんき)し、にわかに参朝を停め、ついに幽閉、
沈淪の御身となし奉り候、その罪の一つなり。