正論 2016年5月号
緊急寄稿 張作霖爆殺ソ連犯行説 見逃された重要証言
青山学院大学教授 福井 義高
ttp://www.fujisan.co.jp/product/1482/b/1384476/

 ・・・近年、ソ連の特務機関による犯行説が日本の保守派の間で議論されてきた。ノンフィクション作家の加藤康男氏に
よる『謎解き「張作霖爆殺事件」』(2011年、PHP新書)がその代表で、内外の資料を駆使しながら、ソ連犯行説を詳細に
提示した。
 残念ながら、ソ連犯行説は、日本では「素人の陰謀論」として、学会主流からは無視されている。ところが、国際的には、
通説とまではいえないにしても、研究者の間で有力な説となりつつある。
 ソ連政治・軍事研究の泰斗、米インディアナ大学の黒宮広昭教授も、ソ連犯行説を採用するひとりである。

 黒宮教授は、今年、新たに通説の再検討を迫る論文を国際的学術誌に発表した(≪Journal of Slavic Military Studies≫
29巻1号)。

 そして、ロシア語文献とともに、事件の「最も詳細な分析」(the most detailed analysis)として加藤氏の『謎解き』が
明記されている。さらに、黒宮教授は、加藤氏も含めて、これまで日本では見逃されてきた、ソ連犯行説に関する重要な証言
にも触れている。
 それは、ドミトリー・ヴォルコゴーノフの『トロツキー その政治的肖像』(1992年)にある、レフ・トロツキー暗殺犯の
ナウム・エイチンゴンに関する一節である。以下邦訳(生田真司訳、1994年、下巻417頁)とロシア語原文(・・・


  極東とアメリカ事情にずばぬけて強い。「張作霖」事件に関連したエピソードを持ち、当地でブリュッヘルを救い出して
 いる。


 ソ連時代末期には国防省軍事史研究所の所長、ソ連崩壊後はボリス・エリツィン大統領の顧問を務めたヴォルコゴーノフ大将
が、職務上、特別にアクセスできる機密文書に基づいて書いたトロツキー伝の記述の信憑性は高い。しかも、トロツキー暗殺と
直接関係ないにもかかわらず、あえて「『張作霖』事件」に触れたことの重みは、これまでの「孫引き」資料とは比較にならない。

日本の歴史学会が研究者の集まりであるならば、加藤氏の挑戦を受けて立つ必要があろう。