アウェイ、東京競馬場で迎えた東京優駿
全く見せ場もなく惨敗だった
競馬場に響くファンのため息、どこからか聞こえる「ダービーは無理だな」の声
無言で帰り始める騎手達の中、4年前のリーディングジョッキー福永は独り待機所で泣いていた
アメリカで手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できる馬質・・・
それを今の実力で得ることは殆ど不可能と言ってよかった
「どうすりゃいいんだ・・・」j福永は悔し涙を流し続けた
どれくらい経ったろうか、福永ははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たいベンチの感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、帰ってトレーニングをしなくちゃな」福永は苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、福永はふと気付いた

「あれ・・・?お客さんがいる・・・?」
待機所から飛び出した福永が目にしたのは、パドック席を埋めつくさんばかりの観客だった
黙々とパドック周回が行われ、歓声やシャッター音が響いていた
どういうことか分からずに呆然とする福永の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「ユウイチくん、返し馬だ、早く行くぞ」声の方に振り返った福永は目を疑った
「す・・・角居先生?」  「なんだ祐一、居眠りでもしてたのか?」
「ふ・・・藤田バーテンダー?」  「なんだ祐一、藤田をバーテンダーにしやがって」
「ゆ・・・豊さん」  福永は半分パニックになりながらモニターを見上げた
1番:キズナ 2番:コディーノ 3番:アポロソニック 4番:クラウンレガーロ 5番:メイケイペガスター
6番:ラブリーデイ 7番:ヒラボクディープ 8番:ロゴタイプ 9番:エピファネイア・・・
暫時、唖然としていた福永だったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった
「勝てる・・・勝てるんだ!」
厩務員に補助を受け、ターフで全力疾走する福永、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・

翌日、ベンチで冷たくなっている福永が発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った