そこから半年程、義弟夫婦が義実家に顔を出すことはなかったのだが、昨年の正月に再び義実家に集まる機会があった。
旦那と二人、義弟嫁さんが心配だね、と話していたのだが、案の定トメは義弟嫁に対してだけ初めからフルスロットルで敵対モード。自分の料理に手を付けなかっただけではなく、前の会合が上手くいかなかった恨みも全て義弟嫁のせいと考えていたのだと思う。
三兄弟がトメを叱りつつ、着席。今回の料理人もトメ。
ひと悶着あった後、ようやく食事が始まったため、私は最初に味噌仕立てのお雑煮に口を付けた。
と、あらー、濃厚な海老の出汁が美味しいこと。
同じくお雑煮を食べようとしていた義弟嫁を「だめー!」と全力で止めた。

トメ、義弟嫁と、義弟嫁を止めた私に大憤慨。
あれこれ言ううちに抑えがきかなくなったのか、ついには、
「アレルギーなんて甘え! そんな理屈で、振舞われた食事に手を付けないなんて、空気が読めていないし無礼! 私だったら、我慢して姑の出した料理を完食するわよ!」とのたまう。
すみません、無理なものは無理なんです、と委縮する義弟嫁。
義弟嫁さんが死んじゃったらトメさん責任取れるんですか、と言い返す私。
死ぬほどじゃないでしょと、更に顔を赤くしてふじこるトメ。
にっこり笑顔のまま、自分の鞄を寄せて何かを取り出す義兄嫁。

そして、義兄嫁さんは、怒るトメの手を取ると、その手に鞄から取り出した何かを握らせた。よく見るとそれは、ソーイングセットに入っているような、片手サイズのハサミだった。

「トメさん、このハサミを今すぐ自分の喉に突き刺して、って言われたら、できますか?」
トメ、私、義弟嫁はポカーンとしたが、すぐにトメは義兄嫁に対して、できるわけないでしょ、何考えてるの、とぎゃあぎゃあ言いだした。
義兄嫁、笑顔を崩さないまま続ける。

「アレルゲンを飲ませられるなんて、アレルギーの人にとっては毒を飲ませられることと同じなんですよ。
ハサミも同じですよね。ハサミを喉に刺したって、死ぬほどのことじゃないですものね。
トメさんは、もし自分だったら我慢して実行するのですよね。
じゃあ、人に勧められたらハサミで自分の喉を刺すくらいできますよね。
トメさんはまさか、空気の読めないことなんてしないのですよね」