この犯人の場合は、自分も死んじゃったわけじゃないですか。
まあ、「一人で死ね」って思う気持ちも分かるんだけど。
でも、自分の命も大して重く見ていないようじゃ、他人の命だって、大切にできないよね。
いくら「他人も自分と同じ人間なんだ」って言われても、自分の命に価値がないと思ってるんだから。

俺も犯人と同じ50代だけど、高校生くらいのときに「生きていたってしょうがないな」と思っていたときがあるんですよ。
何を見ても感動できない、何を食べても味がしない。
自分がそんなふうになっちゃったら、他人のことなんて全然考えられなかった。
もしかしたら、一歩間違えれば俺があっち側だったかもしれない。

だけど……たまたま近所の美術館に行ったときに、偶然ピカソ展をやっていて、ピカソの絵を見たときに「ああ、こんな自由でいいんだ」って……。
ピカソの絵をちゃんと理解できたわけじゃないんだけど、感動したの。
それで色々な絵を見て、好きになって……。
俺さ、何かを好きになることって自分を好きになることだと思うんだよ。
「その物の良さに俺は気付けたんだ」「俺も捨てたもんじゃないな」って。
人でも、文学でも、映画でも、お笑いでも、何でもいいよ。
俺は、それでようやく……。
そうやって、みんな……他人のことも考えられるようになると思うんだ……。

だから……つまり……俺は……その……「すぐ近くにいるよ」って伝えたい……。
自分が感動できるもの、好きになれるものは、きっとすぐ近くにいるよって……。
「もう死んでもいいんだ」と思っている人がもしこれを見ていたら……すぐ近くにいるよって伝えたい……。
何かを好きになって……そしたらきっと、自分も他人も大切にできるようになるから……。
絶対……すぐ近くにいるからな。