「樹高千丈 落葉帰根」

母一人子一人の母子家庭に育った僕は、田舎の〇〇市から東京に、何故か今いる。
俳優としてデビューすることになったのだ。映画やドラマにも出演するようになっていた・・・
主役を演じ、いつの間にかスターになっていた。飛ぶ鳥落とす勢いで、
100年に一度の逸材と称されるビッグスターに駆け上がっていた。

俳優として、もてはやされるようになっていた僕は、徐々に成功ばかりの
役者生活に飽きるようになっていた・・・俳優を引退することを決断し、東大受験、
一発合格、その後、東大からハーバード大に編入、その後、大手商社、とんとん拍子に出世し、
会食パーティで知り合った有名女優と2年後に婚約、麻布の一等地に大きな邸宅を構え、

妻との間には3人の子供をもうけた。会社の存亡を賭けた一大プロジェクトの責任者に任命され
これを成功に導く・・・この年齢では異例の副社長に任命された。

「あなたの人生は、本当に失敗がなかったのね。」妻はリビングのソファーに腰掛け、スヤスヤ眠る
3人の我が子を割れ物に触れるかのようにそっと撫でて言った。
「ああ、僕の人生は作り物のように綺麗に順風満帆で、成功続きだったよ。」誇らしげでもないが、
僕は淡々と語った・・そう僕の人生は完璧だ。

「すごく嫌味な言い方だけど、不思議とあなたがそう言うと否定する気にはなれないわ、だって本当に
完璧な人生なんですもの・・・。」・・・うふふ・・・と妻は柔和な笑みを浮かべる・・美しく妖艶に・・・・・・

「朝ですよ!」・・・「ああ、」と気が付くと、そこにあったものや、妻の姿も子供の姿もなくなっていた・・・
あったのは、ビールの空き缶と、吸い殻がのった灰皿。台所では母親が夕食を作っていた・・・

・・・どんなに地上高い樹の枝や葉になっても、いずれは地に落ち根に帰る。人は最後には故郷に帰るものである・・・

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