泥だらけになったユニホームで、大阪桐蔭の主将、中川卓也は言った。
「アルプスに先輩たちの姿が見えた。うれしいです」。
史上3校目の春連覇。
紫紺の旗を取り戻したその表情は晴れやかだった。
「主将力」「キャプテンでチームは変わる」。
この二つの言葉を胸に秘め、中川は走り続けてきた。
悪夢のような経験がある。
一塁手で出場した昨夏の甲子園3回戦。
仙台育英を1―0でリードして迎えた九回2死一、二塁で遊ゴロが飛んだ。
「ショートが二塁に投げてアウトを取ると思った」。
気を緩めた瞬間、遊撃手は一塁へ送球してきた。
慌ててベースへ入ろうとしたが、踏み外してセーフに。
直後に逆転サヨナラ打を浴びた。
「すいませんでした」。
夜の宿舎で3年生の部屋を順番に回り、頭を下げ続けた。
そして最後。
前主将の福井章吾さんの部屋に入った瞬間、泣き崩れた。
(続く)