口パク(テープで歌を流し、実際は歌わないで歌うふりだけすること)を、これほどあからさまにやったアーティストは
あまりいないのではないか。最近は口パクであることをあえて隠さず、一種公然の秘密とするアーティストも増えて来た。
でも、そうしたアーティストも歌うふりをするしマイクを口に持っていくことくらいはしてみせる。

しかしニッキー・ミナージュはそれさえしない。自分のヴォーカル・パートでもマイクを客に向けて歌わせ、
スピーカーから彼女の歌が大音量で流れても全く気にしない。しかもほとんど全曲がそんな調子なのだ。
この人に従来の常識は通じないと思った。

今回のライヴは一時間強のコンパクトなものだったが、その全てが彼女の新しさと画期性を感じさせるものだった。
口パクというのはとても分かり易い例だが、それ以外も従来のこうあるべきだという考えに拘束されない自由さに溢れる
楽しいパフォーマンスだった。お客さんの満足度も高かったと思う。(渋谷陽一)