台湾の国防部(国防省に相当)の年次演習「漢光33号」で5月末、陸海空軍の統合実弾演習が台湾海峡に浮かぶ離島、澎湖諸島で行われた。中国軍の上陸部隊を阻止する演習では、台湾が自主開発した多連装ロケット砲「雷霆2000」が人目を引いた。遠・中・近距離の3種類の射程の弾薬を活用して上陸部隊を阻止するロケット砲の実力と限界を探った。(台北 田中靖人)

上陸部隊を「面」制圧

 雷霆(らいてい)は「激しい雷」を意味する。台湾の陸軍砲兵訓練指揮部が発行している学術誌「砲兵季刊」の2013年9月号の論文などによると、雷霆2000の開発は、米軍の履帯式の自走多連装ロケットシステム(MLRS)のM270を参考に、1991年から国防部傘下の研究開発機関「中山科学研究院」で始まった。MLRSが冷戦期の欧州方面で、ワルシャワ条約機構軍の機甲部隊を阻止するために開発されたのに対し、雷霆は当初から上陸用舟艇を攻撃することを目的としていた。

 火力不足を補うため、2006年には原型タイプの配備が行われ、翌年には牽引(けんいん)式タイプが離島に配備された。現在の8輪車両に搭載するタイプは12年から運用が始まった。諸元は、重量30トンで、最高時速100キロで最大800キロを移動する。ロケット弾はキャニスターに入っており、再装填(そうてん)には12分間かかる。射撃は指揮車からの指示による自動制御で、発射直後に退避行動が取れるようになっている。

ただ、MLRSや、これを輸送機C130で輸送できるように軽量化した高機動ロケット砲システム(HIMARS)と異なり、空輸は想定していない。海岸線の長い台湾内部で、敵の上陸想定地点まで高速で自走して移動することが想定されているようだ。

 ロケット弾の射程は遠距離45〜25キロ、中距離32〜15キロ、近距離15〜10キロの3段階に分かれており、遠・中距離の弾頭には、無数の高鉄の球を1発当たり120〜100メートルの範囲で散布する主に対人用と、半径約7メートルに厚さ8センチ程度の装甲を貫通する子弾を散布するタイプの2種がある。近距離型は対人用しかない。

 キャニスターには6〜20発のロケット弾が装填されており、「点」で攻撃する火砲やミサイルと異なり、広範囲の敵を「面」で制圧するのが特徴だ。

4段階で多数回射撃

 雷霆の使用を想定している中国軍の上陸作戦は、海岸から30〜20キロ沖合で揚陸艦や輸送艦から水陸両用車両や上陸用舟艇に乗り換え数波に分けて徐々に接近し、約8キロ沖合から順次、海岸に突撃する方法。雷霆は海岸から10キロ程度内陸の射撃陣地に入り、まず接近中の大型輸送艦などを遠距離から射撃、次に乗り換え作業で停泊中の輸送艦などを複数回、射撃する。敵が上陸用舟艇などに乗り換えて10〜8キロ沖合まで接近した後は、中距離用で小型の揚陸艦や上陸用舟艇を攻撃し、最後は8キロ以内に接近してきた舟艇や水陸両用車両に短距離用のロケット弾で集中射撃を行うという。

新たな弾薬の必要も

 ただ、想定している作戦は、やや古典的でもあるようだ。論文は、071型(崑崙山級)の強襲揚陸艦を想定しているのだろうか、新型の揚陸艦からヘリやエアクッション揚陸艇を使用する場合、停泊せずに短時間で乗り換え作業ができ、また、40〜30キロ沖合の水平線の先の視界外のため、効率的な攻撃は困難だとしている。

 また、同じ筆者の16年7月の論文は、概要だけが公開され本文は非公開だが、新型の強襲揚陸艦に加え、16年10月の本欄で紹介した新型の05式水陸両用戦車(ZTD05)の存在を指摘している。論文は、05式戦車は海岸の30〜20キロ沖から発進できるため、乗り換え作業地点での集中攻撃が難しいと問題提起し、精密誘導弾頭やミサイル化、魚雷化など、新たな弾薬の開発が必要だとしているようだ。

 雷霆が参考にしたMLRSは陸上自衛隊も採用しており、陸上の目標だけでなく、上陸用舟艇などの「広域目標」の撃破任務が付与されている。MLRSの弾頭の詳細は不明だが、中国軍の侵攻に備えるという点で、雷霆が抱える課題は日本にとっても参考になるのではないか。

http://www.sankei.com/world/news/170616/wor1706160001-n1.html
2017.6.16 07:00