今月末の米韓首脳会談を前に、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領(64)が明らかにした「甘口」の北朝鮮政策の輪郭が際立ってきた。

 核凍結と引き換えに対話開始→核廃棄という「2段階論」だが、開発凍結の検証には触れずに、「制裁だけでは解決しない」と述べる。「膝をつき合わせて話す用意がある」とする南北首脳会談は年内実現を目指すという。

 一方、大統領および周辺から米韓同盟を揺るがす発言も目立ち、文大統領の口からは、両国の軍事関係の要といえる戦時作戦統制権について「適切な時期に韓国に取り戻す」との宣言まで飛び出した。

 このところ連日、欧米メディアの取材に応じている文大統領の発言は、対北融和がにじむ。

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の人物を評し、「彼は合理的な人間ではない」としたが、さらなる批判は避けた。

 「彼は体制を守りたがっている。核プログラムでハッタリをいっている」。そう述べつつ、5回の核実験を繰り返し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)搭載可能な核の小型化を目指す北朝鮮の脅威への認識の甘さを露呈した。

 核問題で「凍結→廃棄」を目指すという「2段階論」では、「北朝鮮が交渉のテーブルに出てくるなら彼らを助ける用意があるとのメッセージを出す必要がある」と述べ、「まず見返りありき」を強調した。

 一連の発言では、首脳会談を意識して、「私とトランプ大統領の目標は同じだ。それは朝鮮半島の非核化」と繰り返したが、見返りについては「たとえば開城(ケソン)工業団地の再開」と述べ、米記者から「国連制裁違反ではないか」と指摘される場面もあった。

 文大統領はすでに「北朝鮮が核、ミサイルの追加挑発を中止すれば条件なく対話に乗り出せる」と述べている。「入り口にアメ、出口に凍結→廃棄」という構図ならば、失敗を繰り返した過去の関与政策と同じことになる。

 一方、このところの米韓関係は韓国発の不協和音が続く。訪米した大統領直属の統一外交安保特別補佐官、文正仁(ムン・ジョンイン)氏が「北朝鮮が核凍結すれば米韓共同軍事演習の縮小もある」(16日)と述べ、米側の怒りを買った。

 大統領府は即座に火消しに回ったが、北朝鮮側からは駐インド北朝鮮大使が「米韓が合同軍事演習を中止すれば北朝鮮も核・ミサイル発射凍結もありえる」(21日)と韓国提案を歓迎するような反応が出ており、早くも南北融和ムードだ。

 また文大統領は米メディアに、米韓軍事同盟の要、戦時作戦統制権について「主権国家として適切な時期に(米国から)取り戻す」と語った。これは、実現すれば米韓関係が決定的に転換する重大事項だが、同時に北朝鮮にとっては膝を打つような発言だろう。

 朝鮮半島有事に米韓連合軍を指揮する戦時作戦統制権は、朝鮮戦争時、軍事行動の一元化のため韓国が米国に移譲した(1950年、大田協定)。

 これが韓国に移管されると、米韓合同司令部は解体となり、米韓軍の共同作戦はなくなる。事実上の同盟解消にもつながる。

 盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権時に韓国が米国に要求、いったんは合意したが、実行前に当時の朴槿恵政権が撤回、事実上、無期延期になっていた。文大統領は選挙公約に「任期中の移管」を挙げてきた。

 在韓米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル」(THAAD)配備問題でも、文政権は米国の対韓感情を刺激している。政権発足後、まず環境アセスメント実施を理由に配備を延期した。現在は合意経緯が「不透明」と問題視して、さらに検証の必要性などを強調している。

 文大統領は外交政策で米韓関係重視を掲げている。だが、その対米姿勢には「米韓より南北」が目立ってきた。トランプ大統領に文大統領が何を語るのか。米韓関係の行方は朝鮮半島情勢のカギとなる。

(編集委員 久保田るり子)

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北朝鮮の現実の脅威が迫る。6月21日、ソウルの国防省で公開された、北朝鮮から飛来したドローン(AP)