★「敗走千里」陳登元著、別院一郎訳

 戦後GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の手で封印された幻の戦争文学が、完全復刊した。

 著者は10代半ばで日本に留学、大学卒業を翌年に控えた昭和12(1937)年に本国に一時帰国したところを、中国軍に強制徴募され、前線に送られた。酸鼻を極める戦場を体験、重傷を負って戦線離脱、上海の病院を退院直前に脱出し本稿を書き上げた。

 その原稿を日本の恩師へ送り、恩師が訳者となる形で出版した。

 兵士が赤裸々に描いた戦争の実態は、幹部の腐敗や兵士たちの略奪を記録し、南京大虐殺という虚妄を暴くカギを握る。

 圧巻はなだれを打って退却する中国兵たちを迎え撃つ「督戦隊」の存在だ。日本軍に追われて逃げ戻ってくる友軍に容赦ない一斉射撃を浴びせ見る間に死体の山を築く。

 射撃によって退却の勢いを止め、再び日本軍へと向かわせようとするが、退却の流れは止まらずうずたかい死体の山が生まれるばかり。主人公は死体の山の下にもぐって助かろうとする…。

 南京郊外にできた死体の山はどうやってできたのかを示唆する凄惨な場面だ。ほかに、正規軍が軍服の下に便衣(民間服)を用意し、いつでも一般市民に変装できるようにしていたことや、略奪・暴行が日常化していたことも描かれている。

 南京大虐殺という虚妄を暴く迫真の史料といってよい。

http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170707/soc1707070026-n1.html

http://www.zakzak.co.jp/images/news/170707/soc1707070026-p1.jpg
「敗走千里」ハート出版・1800円+税