中国による南シナ海支配の根拠をことごとく退けた仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の判決から12日で1年となる。
窮地に追い込まれた中国は判決の受け入れを拒否し、
紛争相手のフィリピンとの2国間交渉に持ち込んで判決の有名無実化に成功した。

国際法上の「法的拘束力」を無視するかのように、
南シナ海の島で今、大国の「実効支配」が静かに積み重ねられている。
【海南島(中国南部)で林哲平】

南シナ海に面した中国・海南島の瓊海(けいかい)市潭門(たんもん)鎮。
機械油と魚の生臭さの漂う港に近い飲食店には、漁の合間をぬってマージャン卓を囲む漁師たちが集まる。

仲裁判決の影響はあるのかと記者が問いかけると、1人の男が挑発するように答えた。

「日本には“紙くず”を気にして海に出ない漁師がいるのか? ここにはそんなやつはいないよ」

男がこう話すと、周囲から笑い声が上がった。
「南沙には高く売れる魚が多い。祖先から受け継いだ宝の海だ」

漁師らによると、判決後には漁民組織を通じて、こんな指示が伝えられた。
「いつも通りの仕事を続けるように。それが国民の務めだ」。
約1000キロ離れた南沙(英語名スプラトリー)諸島まで出漁する船には、
地元政府から15万元(約250万円)を超える燃料費補助が、仲裁判決の前と同じように支給されるというのだ。

既成事実化の動きは漁業にとどまらない。

中国有数の観光地、海南島三亜市から西沙(英語名パラセル)諸島に向かうクルーズ−−。

ある旅行社のプランをみる。
「3泊4日で4780元(約8万円)〜」。
決して安くはないが、人気のツアーになっているという。
その大きな理由が、島での国旗掲揚などの「愛国主義活動」なのだ。

「中国人としての誇りを感じた」。
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)には、旅行客の声が集まる。
参加した広州市の会社員の女性(28)は
「判決の影響を心配したが、まったくの杞憂(きゆう)だった」と声を弾ませた。

海南省は南沙、西沙諸島のリゾート化を進める。
中国紙によると、両諸島を含む三沙市の市長は、島の将来像をこう描いているという。
「結婚式場やダイビング施設を整える。世界的に人気のインド洋の島国、モルディブに匹敵するリゾートを目指す」

軍事手段に頼らない「実効支配」が着々と進む。

■南シナ海を巡る仲裁判決
南シナ海ほぼ全域に権益が及ぶと主張し、スカボロー礁などフィリピン近海で実効支配を拡大する中国に対し、
フィリピンは2013年、国際法に違反するとして仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)に提訴した。
仲裁裁判所は16年7月12日、中国の権益主張を否定する判決を出したが、中国は受け入れを拒否している。

写真:中国国旗「五星紅旗」を掲げた漁船が並ぶ漁港
https://cdn.mainichi.jp/vol1/2017/07/12/20170712k0000m030123000p/9.jpg

以下ソース:毎日新聞 2017年7月11日 22時01分(最終更新 7月11日 22時52分)
http://mainichi.jp/articles/20170712/k00/00m/030/117000c