世界経済の展望について議論する国際会議「夏季ダボス会議」が、6月下旬に中国遼寧省大連市で開かれた。出席した李克強首相(62)は会場に居並ぶ海外の企業幹部らを前に「中国での投資拡大の継続を歓迎する」と訴え、市場開放の姿勢を強調した。

 首相自らが前面に立って外資誘致をアピールするのは、海外からの対中投資が減少していることへの危機感からだ。外資の力を取り込むことで景気を下支えしたいという思惑があるが、外資系企業にとって中国市場は政府による突然のルール変更など特有の“リスク”への懸念が根強い。

 人口13億人超の巨大市場は企業にとって魅力的に映るが、李首相の掛け声通りに外資誘致が進むかは不透明な状況だ。

李克強首相「外国企業を歓迎する」

 「改革推進の過程で、外資、外国企業、海外の知力の参加は必要だ。外国企業が中国で企業の合併・買収(M&A)に関わることを歓迎する」

 李首相は、6月28日に海外の企業幹部らとの対話セッションに参加し、そこで外資を中国市場に引き込もうとアピール。

 前日に行われた開幕式の演説でも「積極的に対外開放を拡大し、国際競争力を備えた事業環境をつくり出す」と強調し、それとあわせてサービス業や製造業における参入規制を緩和する方針などを打ち出した。

 また、中国政府が推進する製造業振興策「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」についても、「国内外の企業に大きな市場機会をもたらす」と説明。中国市場に対する、海外企業の懸念払拭に努める姿が目立った。

 中国メディアは「李克強首相が外資の国内投資を奨励」(経済サイト「金融界」)などと報じた。

外資誘致は「一石“三”鳥」

 李首相の発言と歩調を合わせるように、6月末には外資系自動車メーカーに対する中国市場への参入規制の一部緩和が国家発展改革委員会などから発表された。

 外資企業の投資ガイドラインにおいて、電気自動車(EV)を生産する場合については、これまで2社までに限定されていた中国企業との合弁枠にとらわれずに新たな合弁会社の設立を認めるという内容が盛り込まれた。

 これにより、中国政府が普及を推進しているEVを含むエコカー分野で、外資参入を進めることを期待しているようだ。

 中国政府が外資誘致を積極化させている事情について、中国の政治・経済に詳しい丸紅経済研究所の李雪連シニア・アナリストは「現在、中国経済は民間企業に力がなく、頼みの綱は 政府による財政支出という難しい状況にある。外資系企業の参入は『資金』だけでなく、海外の『市場』、そして環境などの先進分野の『技術』も運んできてくれるため、外資誘致で『一石“三”鳥』を得ることが期待されている」と分析する。

中国特有の“リスク”に二の足か

 実際、中国における外資の状況を示したデータを見ると、中国政府が誘致に躍起になるのもよく分かる。人民元ベースで見た1〜5月の海外からの対中直接投資額は、前年同期比で0・7%減少している。

 なぜ、対中直接投資が低迷しているのか。それは、人件費の高騰といった事業環境の変化に加え、中国政府による前触れのない規制導入といった特有の“リスク”も海外企業の中国進出に二の足を踏ませているものとみられる。

 例えば、人民元流出を防ぐために中国政府は昨年に外貨規制を導入。これにより、中国に進出している外資系企業の間でも稼いだ利益を海外に送金することが難しくなるといったケースが出た。

 ある日本の大手金融機関幹部は「中国の銀行が当局の意向をくんで、大きな金額の中国外への送金を嫌がることがあった。危うく事業機会を逃しかねないことがあったのも事実だ」といい、突然のルール変更で事業活動に不利益が生じているのが実態だ。

 また、政治に関するリスクも取り沙汰される。

http://www.sankei.com/premium/news/170717/prm1707170006-n1.html

>>2以降に続く)

http://www.sankei.com/images/news/170717/prm1707170006-p1.jpg
6月27日、中国遼寧省大連市で開かれた夏季ダボス会議で、身振りをまじえて演説する中国の李克強首相(世界経済フォーラム提供・共同)