「太陽政策」は、どうも名前の恩恵にあずかっているところがある。旅人の外套(がいとう)を脱がせたのはたけだけしい風ではなく温かい日差しだった、というイソップ寓話のせいだ。韓国国民なら誰でも読むなり聞くなりしてなじみのある物語。「太陽」というネーミングに、簡単にうなずきがちな理由だ。この名前が、相手を認めて温かく抱擁してこそ相手も変わる−という純真な楽観を抱かせた。

 中国人なら、すぐに肯定はしない。「東郭先生」という昔話が、小学校の教科書に載っている。ある農夫が、寒さに凍える毒ヘビを哀れに思い、胸に抱いて温めてやろうとするが、結局はヘビにかまれて死んでしまうという話だ。毒ヘビと知らずに抱いたのだとしても愚かなことだが、毒ヘビと知っていて抱いたのなら、相手の本質を把握できない無知な人間にすぎない、という教訓を伝える。ヘビではなくオオカミになっているバージョンもある。

 この寓話を教えてくれたのは、龍谷大学社会学部の李相哲教授(57)。李教授の生まれ故郷、中国・黒竜江省の村では「リ・サンチョル」と呼ばれた。慶尚北道浦項出身の父親(1913年生まれ)が30年代に満州へ渡っていなかったら、李教授は韓国国民「イ・サンチョル」になっていたことだろう。北京の中央民族大学を卒業し、87年の東京留学を経て日本国籍を取得した。

 メディア史を専攻したが、北朝鮮の専門家として有名になった。朝鮮族の村で生まれ、幼いころから平壌放送を聞いて育った。今も北朝鮮に親類がいる住民から、あれこれニュースを聞く。中国共産党の機関紙『黒竜江新聞』の元記者で、今では日本人になった「境界人」という身の上が、かえって北朝鮮を客観的に観察できるようにさせた。李教授は2011年、『金正日と金正恩の正体』という著書を出版した。また14年12月から2年間、産経新聞に「金正日秘録」を連載した。細かな情報をどこで手に入れたのか、興味深い内容が多い。連載は書籍にまとめられ、数カ月前に韓国でも翻訳出版された。

 李教授は、金大中(キム・デジュン)大統領が平壌を訪問した2000年の時点で、既に「太陽政策」には懐疑的だったと語った。幼いころに学校で習った童話「東郭先生」が、すぐに思い浮かんだという。李教授は「北朝鮮の核開発をめぐる交渉プロセスを見守っているときも、同じ思いを抱いた」と語る。関連資料を探していて、イソップ寓話にも「農夫とヘビ」という、同じようなストーリーの話があることを知った。イソップ寓話をつまみ食いし、「東郭先生」も知らない韓国人だけが、むなしい希望を抱いたにすぎない。

 相手が意地っ張りの旅人なのか、牙をむいた毒ヘビなのかは、既に明らかだ。金大中・盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権を継承した文在寅(ムン・ジェイン)政権は7月17日、南北軍事当局会談と赤十字会談を同時提案した。善の政策を展開すれば善き結果が出るだろうと考える人は、「政治的幼児」(マックス・ウェーバー)にすぎない。幼児の無知は痛い目に遭いかねないものだが、国の運命に責任を持つ人物は、幼児のようであってはならない。まずは、毒が滴るヘビの毒牙から抜かねばならない。温かく懐に抱くのは、その後だ。

李漢洙(イ・ハンス)世論読者部次長
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ソース:朝鮮日報/朝鮮日報日本語版【コラム】毒ヘビをいたわってもかまれて死ぬだけ
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2017/07/21/2017072101632.html