大統領就任までは、北朝鮮とのバラ色の対話構想を掲げる一方、日本や米国への強硬発言を連発していた文氏。世界の現実を肌で感じ、ようやく目覚めた。(ソウル 名村隆寛)
威勢のよさはどこに
「韓国の非力さ」を認めた文氏の発言は、ワシントンでの米韓首脳会談と、ドイツでの20カ国・地域(G20)首脳会議を終えてから初めて開かれた11日の閣議でのものだ。
象徴的な発言を列挙する。
「北朝鮮の核問題解決への道が開かれておらず、弾道ミサイルでの挑発に対する制裁方法への国際社会の協議が簡単ではないという“事実”を重く受け止めねばならない」
「痛切に感じなければならないのは、われわれに最も切迫している朝鮮半島問題にもかかわらず、われわれには解決する力も合意を導く力もないことだ」
「各国が国益を前面に外交をしている。われわれも“国益を最優先”に考え、貫徹できるよう外交を多角化し、外交力を高めねばならないと切実に感じた」
「米国の要求(米韓自由貿易協定=FTA=の再交渉)に対応する通産交渉本部の早急な構築に向け政府組織の改編が急がれる」
対話による朝鮮半島平和構想を掲げ、威勢よく外交デビューしたはずの文氏だが、いざ朝鮮半島を離れて、外で目の当たりにした国際社会という“世間”の現実は、本人が思っていたほど甘くはなかった。事前に分かっていたのか、いなかったのか。
文氏は帰国した後、その感想と心情を、閣僚と国民に対し素直に吐露した。現実を直視した説得力のある発言だった。
外の世界は甘くない
「ようやく分かったのか」との思いで文氏の発言に聞き入ったが、韓国社会の反応は、「やはりそうだったか」とか「今ごろ気付いたのか」といった韓国が置かれている現実を悲観視するものが目立った。
特に保守世論では韓国紙、朝鮮日報が翌12日付の社説で文氏の発言に対し、「普通の国民だったら皆、以前から持っていた認識だ。大統領が今さらのように語るとは」と冷ややかに評した。同時に、文氏の認識変化を「幸いなことだ」とも皮肉った。
今回だけではない。韓国では、外交であれ経済であれ国がまずい状況に陥った際、現実に気付いてから文氏のような発言や指摘がくりかえされてきている。
それまで、韓国国内で威勢のいい言葉を連発していたのが、一歩外に出て国際社会の中で韓国が置かれた現実を認識したとたんにシュンとし、バツが悪かろうが反省する。まさに、内弁慶のようだ。
1990年代末の通貨危機(IMF危機)の際などに見られた韓国ならではの現象で、そんな時、文化人などは韓国自らを「井の中の蛙」などと自虐的に形容したりする。文氏は今回、そこまでは言わなかったが、韓国が置かれた状況を謙虚に見つめ直し、「このままではいけない」と痛感したようだ。
この8カ月余り、韓国が朴槿恵(パク・クネ)前大統領の罷免や大統領選挙の繰り上げで混乱し、国政が停滞していた間、そんなこととは関係なく、世界は動いていた。次のステージに進んでいたわけだ。韓国の政権が変わろうが、国際社会は韓国の国内事情にいちいちかまってくれない。
文氏が大統領に当選、就任する前に自信たっぷりに主張していたような対北対話政策や、米中の間に立つような外交政策などは通用しない現実を、自ら言及したように文氏は痛感したわけだ。
かつての敵にも懇願
韓国という井戸から外に出てみた世界、現実は甘くないということを、韓国の大統領は今回も認識した。初の欧米外遊で世界の現実に直面し帰国した文氏を待っていたのは、今度は国内の現実だ。
文氏は韓国の力のなさを認めた閣議で、内政問題にも触れ、こう語った。「いざ帰国してみれば、国会は一歩も前に進んでいない」。
http://www.sankei.com/premium/news/170725/prm1707250005-n1.html
(>>2以降に続く)