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まず生まれた当時は、母親が日本人であるにもかかわらず、日本の国籍法の「父系血統主義」により日本国籍取得を阻まれ「台湾籍」となり、次に中国と台湾の関係から「中国籍」と変更され、更に日本国籍法の改正により「日本国籍」を取得し、外国国籍喪失届については(台湾が「国」ではないとの理由から)「不受理扱い」。

正に、生まれた時期、状況、重国籍となっているもう一方の国や地域の事情や国内法など、自分の力や意思ではどうしようもないところで翻弄されてきたと言えます。

実際に、自分の国籍を離脱することを国内法上不可能にしている国、またはその手続きをすることが非常に困難な例も多々あります。だからこそ国籍法第16条1項は外国籍の離脱を「努力義務」としているのです。

例えば、難民はその最たる例です。元の国籍を離脱する手続きをとったり、それを証明する書類を取るには、国籍国の政府や大使館などに本人ないしは代理人がアプローチする必要がありますが、難民は正にそのような国や政府による迫害を逃れてきた人たちだからです。

出自というのは完全に「偶然」の結果です。自分の能力や努力の結果で「日本人」として生まれてきた人は誰一人としていません。

それなのに、出自という偶然の賜物でしかないことに拘泥しないと気が済まない人は、少し厳しい言い方になるかもしれませんが、かえって自分自身が自分の努力や能力の結果で何かを成し遂げた経験のない人なのではないでしょうか? 

生まれながらにして重国籍で生まれる人、外国で生まれる日本人、外国に移住する日本人、日本に移住してくる外国人、他国の国籍を取得しようとする日本人、日本に帰化する外国人がこれだけ増えている中で、日本の国籍法や従来の「日本人」という概念は明らかに現実から大きく遅れていると言えるでしょう。

日本における「国籍問題」は、一国会議員による戸籍情報の公開で一件落着した訳では一切ありません。

今回の議論をきっかけとして、何が時代の趨勢に合っているのか、中長期的な意味でどういう制度が日本にとって真の意味で「得」なのか、世界に対して「恥ずかしくない制度」と言えるのか、考え、そして変えていく契機になれば良いなと思います。

橋本直子
「東京都生まれ。オックスフォード大学院卒(スワイヤー奨学生)。専門分野は、国際難民法・移民法、強制移住学、国際人権法、国際人道法、難民・移民政策、国際関係論。10年以上、難民や移民に関わる国際機関や公的機関に勤務した後、現在は休職して英国にて博士論文を執筆中。
日本財団国際フェロー、ロンドン大学難民法イニシアチブ博士アフィリエイト、日本移民政策学会理事。共著に『難民・強制移動研究のフロンティア』(現代人文社)、『東日本大震災と外国人移住者たち』(明石書店)、『現代における人の国際移動』(慶應義塾大学出版会)ほか。

(おわり)