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鈴置:8月1日の記者会見で、ティラーソン(Rex Tillerson)国務長官が「我々は北朝鮮の敵ではないと伝えたい」「北朝鮮と、その安全と繁栄を保障する未来をじっくりと話し合いたい」と述べました。原文は以下です。

we’re trying to convey to the North Koreans we are not your enemy, we are not your threat, but you are presenting an unacceptable threat to us, and we have to respond.
we would like to sit and have a dialogue with them about the future that will give them the security they seek and the future economic prosperity for North Korea, but that will then promote economic prosperity throughout Northeast Asia.

 米国の北朝鮮に対する基本方針は「圧力と対話」でした。北朝鮮が核武装に向け時間稼ぎに利用する対話には否定的ですが、対話を頭から拒否はしていなかったのです。

 「北朝鮮を潰す意図もない」ことを示すために、ティラーソン国務長官は5月3日、国務省職員への演説で、いわゆる「4つのNO」を約束しました。

 北朝鮮が核開発を放棄するなら(1)体制変更は求めない(2)金正恩政権の崩壊を目指さない(3)朝鮮半島の統一を加速しない(4)38度線(軍事境界線)を越えて北進しない――です。

 8月1日の会見でも「4つのNO」を繰り返していることから見て、ティラーソン国務長官は米国で盛り上がる強硬論の軌道修正を図ったと思われます。

対話を拒否した副大統領

 でもワシントンは、そんな融和的な姿勢はとても許されない空気になっています。ペンス(Mike Pence)副大統領は翌8月2日、記者らに北朝鮮との直接対話は拒否すると語りました。

 前日のティラーソン発言を否定したものです。WSJが「Pence says U.S. Won’t Hold Talks with North Korea」(8月2日)で報じています。その部分は以下です。

U.S. Vice President Mike Pence rejected the notion of holding direct talks with North Korean leader Kim Jong Un aimed at curbing the nation’s , nuclear weapons program saying the right strategy doesn’t involve “engaging North Korea directly.”

 WSJの8月2日の社説「Tillerson’s Korea Confusion」はティラーソン国務長官の「敵ではない」との発言を取り上げ「米国の都市を長距離ミサイルで狙う北朝鮮が敵ではないと言うのは明らかな偽善であり、米国を弱く見せる」と厳しく批判しました。

Saying that North Korea is not an enemy even as it threatens American cities with its new long-range missiles is obviously false and makes the U.S. look weak.

 サブ見出しは「The Secretary of State offers happy talk about Chinese cooperation」。スラングを使って意訳すれば「中国との協力にいまだ期待する国務長官の脳内お花畑」です。WSJは「まだ、そんな甘い願望を持っているのか」とため息をついたのです。

55%が軍事的解決を支持

米国人は日本が考える以上に怒っていますね。

鈴置:北朝鮮は「米国を先制核攻撃する」と公言しています。その北朝鮮が米国まで届くICBMを保有したのです。当然、普通の米国人は、自分の身に及ぶ脅威は自らの手で取り除こうと考えます。

 EEZ(排他的経済水域)にミサイルを撃ち込まれても「抗議する」と繰り返すだけの自国政府に、不満も漏らさない日本人とは大いに異なります。

 FOXニュースが7月16−18日の間に実施した世論調査で、米国人に「外交的な手段だけで北朝鮮に核・ミサイルを放棄させられない場合、米国は軍事力を使っても阻止すべきと思うか」と聞いています。

 55%が「軍事力を行使」と答えました。「あくまで外交手段で」と回答したのは29%です。4月23―25日の調査では、それぞれ51%と36%でしたから、世論も戦争に傾いていることが分かります。

難民で中国だけが損

しかし、国連安保理が「強力な制裁決議」を採択しました。戦争は避けられるのでは?

鈴置:「強力」と言っているのは採択に関わった外交関係者だけです。自画自賛です。この制裁の効果がどれだけ上がるかは疑問です。まず、中国やロシアが本気で制裁を実施するかは不透明です。

 仮に完全に実行したとしても、実効がどれだけあるか怪しい。北朝鮮の輸出を止めると言っても全体の3分の1程度。外貨収入を3分の2に減らされたからといって、北が核・ミサイル開発を諦める可能性はまずない。少なくとも、即効性は期待できません。

 米国が求めた石油の対北朝鮮輸出の禁止を盛り込めば、かなり威力を発揮したことでしょう。

(続く)