>>594
それがなければそれなりの生活をしていたにすぎない

古よりも、後世のまされること、萬の
物にも、事にもおほし、其一つをいはむに、いにしへは、橘をならびなき物にしてめでつるを、近き世には、みかんといふ物ありて、此みかんにくらぶ
れば、橘は數にもあらずけおされたり、その外かうじ、ゆ、くねんぼ、だい/\などの、たぐひおほき中に、蜜柑ぞ味ことにすぐれて、中にも橘によ
く似てこよなくまされる物なり、此一つにておしはかるべし、或は古にはな
くて、今はある物もおほく、いにしへ
はわろくて、今のはよきたぐひ多し、
これをもておもへば、今より後も又い
かにあらむ、今に勝れる物おほく出來べし、今の心にて思へば、古はよろづに事たらずあかぬ事おほかりけむ、されどその世には、さはおほえずやありけん、今より後また、物の多くよきがいでこん世には、今をもしか思ふべけれど、今の人、事たらずとおぼえぬが
如し