"幸せの国"ブータンを巡って、中国とインドの両軍が1か月以上も睨み合っている。

 事の発端は今年6月、中国とブータンの係争地であるインド国境に近いドクラム高原で、中国の人民解放軍が道路建設を始めたことだった。

 この地域の国境線はもともと複雑で、ブータンと中国は「現状維持」との合意を交わしていたが、今回ブータンは中国に対し「領内で道路建設を行ったことは直接の条約違反だ」と抗議。ブータンの安全保障を担っているインド軍がドクラム高原に展開、中国との睨み合いが始まったのだ。

 インドの動きに対し中国政府は「インド軍が撤退しなければこの状況(緊迫状態)は回復しない」(中国外務省・耿爽報道局長)との声明を発表している。

 過去にも中国とインドは国境を巡って大規模な軍事衝突をしている。1950年に両国の対立が表面化し、1962年に大規模な軍事衝突に発展。1970年代には散発的に衝突し、1980?90年代は両首脳が訪問するも現在まで国境問題は解決していない。

 9日放送のAbemaTV『AbemaPrime』は、中印それぞれの専門家を招き、問題の背景を探った。

 問題の渦中にいるブータンは、国民の97%が「幸せ」と答える、"世界一幸せな国"として知られている。人口はわずか77万人ほどで、面積は九州と同程度。経済成長を追い求めるのではなく、国民がいかに幸福であるかを実現しようとしている。

 そんなブータンの"幸せ"を支えているのがインドだ。ブータンはほぼすべての物を隣国のインドから輸入している。また、1949年、両国は友好条約を結び、ブータンの外交は2007年までインドの助言を受けていた。そのため、今もブータン国内にはインドの軍事顧問団が駐留し、軍事支援をしているのだ。

 この点について、インドの軍事や外交に詳しい未来工学研究所の長尾賢氏は

 「インドの領土でバングラディシュとネパールに挟まれている地域の幅は17kmくらい。東京-横浜間が27kmと考えるとすごく細い。この部分を中国に取られると、インドは真っ二つになってしまう。そこでブータンを含む周辺の国々に"インドが守ってあげる"というメッセージを発することで、自分たちの国境を守ることができているという関係になっている」と説明する。

■中国に真っ向から対決姿勢を挑んだインド

 中国とインドの対立の背景には、国境問題とは別の要因もある。それは習近平主席が提唱している「一帯一路」構想だ。アジア〜ヨーロッパ〜アフリカ大陸東岸に広がる巨大な経済圏の構想で、関係国は70カ国以上と言われ、日本円で約112兆円をかけ、インフラを整備する計画となっている。インドはこの構想について話し合うサミットを欠席した。

 長尾氏は「インドはこの構想に対して真っ向から対決姿勢を挑んだ唯一の主要国じゃないかと思う。反抗的と見られていたシンガポールなどには招待状がこなかったようだが、インドには来た。だが、インドは拒否し、外務省の声明として『この構想は悪意に満ちたものだ』と激しく非難した。

 一帯一路構想はインドの影響力に対する挑戦状であるというように捉えている。例えばインドとパキスタン両国が領有権を主張しているカシミール(インド北部とパキスタン北東部の国境付近に広がる山岳地域)の道路建設を中国軍が行っている。もし道路建設をしたいならば、自分たちの許可も得なければならないというのがインド側の立場」と話す。

 一方の中国の思惑について、中国の軍事や外交に詳しい笹川平和財団特任研究員の小原凡司氏は「中国にとってブータンは、国境を接している国で唯一国交がない。インドと対立するときには無視しても構わない存在」と話す。

 「ドクラム高原を取ったからといって、中国に何か良いことがあるかというと、むしろ逆ではないか。9月に中国でBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)の会議がある。インドとの関係が悪いままでは、これが失敗する可能性がある。

 中国が面子を失えば、(習近平政権が)で政敵に非難される可能性もある。そうを考えると、なぜ中国がこの時期にここまでインドに対して強硬な姿勢でいるのか疑問符がつく」(小原氏)。

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>>2以降に続く)