ここ半年ほど、日本では中国の社会のスマート化が驚きをもって報じられるケースが増えている。いまや中国のスマホ普及率は58%で(日本は39%)、都市部だけなら9割以上に達するという「スマホ国家」。大都市圏を中心として、QRコードの読み込み機能を使ったスマホの電子決済も、個人経営の商店や街角の屋台にいたるまで広く普及している。

ゆえに急成長を見せているのが、シェア自転車やタクシー配車アプリなどの、スマホを介したさまざまな便利なサービスだ。米国のスマート出前サービス「UberEATS」の中国版である「美団外売」もそのひとつである。ユーザーはアプリを使って、現在地の付近にある多数の登録店から料理の取り寄せができる。他にも「餓了?」「百度外売」など各社がしのぎを削る。

従来のように各店舗に直接電話を掛ける面倒がなく、ポータルサイト上でメニューをじっくり見てから注文できるため、食へのこだわりが強い中国人に大ウケしているサービスだ。いまや食事どきに中国の都市部を歩くと、各社のスマート出前バイク(電動バイクが多い)が、スラムの最深部に至るまであらゆる路地を走り回る光景を見るようになった。

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※出撃の準備を整える美団外売の配達員。広東省深?市内で筆者撮影。

ただし、スマホアプリを介した次世代のイノベーションを感じさせるサービスとはいえ、現場で出前の配達を請け負っているのは、サザエさんの「三河屋」さながらの街の普通の兄ちゃんたちだ。ゆえに、いかにも中国らしいカオスな事件も数多く発生中である。

この記事では、妙にケンカっ早くてアウトローな「サイバー三河屋」の配達員たちの、実に香ばしい事件簿をご紹介していきたい。

三河屋VSガードマン、真夏の決戦!

今年7月27日夜、四川省成都市温江区で、美団外売の出前配達員100人あまりと住宅街のガードマン十数人が、それぞれ手に凶器を持って武力衝突する事件が発生した。地元警察当局の微博(中国版ツイッター)や現地報道によれば、事態の推移は以下の通りである。

1.同日午後8時ごろ、美団外売の配達員・伍さんがある住宅街に配達に来た際に、入口ゲートで身分証の登記など必要な手続きをしなかったため、住宅街側のガードマンと口論となる。やがて苛立ったガードマン側が鉄パイプを手に伍さんをぶん殴る。

2.伍さんの上司・雍さんが現場に駆けつけて仲裁に乗り出す。だが、この上司も血の気が多い人だったらしく、ガードマン側と突き飛ばし合ったり殴り合ったりして、騒ぎはむしろエスカレート。

3.劣勢になった雍さんはケンカは数だと考えたのか、みずからスマホのチャットソフト「微信(ウィー・チャット)」のグループ機能を使って、近隣地域の配達員たちを次々に召喚。仕事を放り出した兄ちゃんたちがワラワラと100人以上も現場に集まってくる。

4.互いに鉄パイプ・棍棒・刃物などで武装した「サイバー三河屋」配達員とガードマンによる、真夏の夜の大決戦が発生。中国の暴動にはよくある話ながら、なぜか入れ墨の入った「その筋」らしき人たちも配達員側に加勢にやって来て武器を振り回し、国士無双の大暴れ。

5。数に勝る配達員側がガードマンを取り囲んでタコ殴りにする。

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圧倒的人数でガードマン(中央の黒服)を取り囲むサイバー三河屋(周囲の黄色いユニフォーム)のみなさん。現地報道より

結果、ガードマン7人と配達員1人が負傷して病院に運ばれ、5人が「聚衆闘殴罪」(仲間を集めて暴動を起こした罪)で逮捕された。暴動の規模がいきなり拡大したため、警察側は現場ではほとんど手を出せない状態であったという。

7月30日、美団外売の微博公式アカウントは事件を受けて「社会に良くない影響をあたえた」ことを謝罪し、配達を請け負う人材への監督強化と各地のガードマンとの円滑なコミュニケーションの強化を約束するという声明を発表。スマートなIT企業らしからぬ泥臭い事件への対応に追われることとなった。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52519

>>2以降に続く)