訪日外国人の年間2千万人突破を背景に、安く泊まれる相部屋式の簡易宿泊施設「ホステル」が全国で急増している。

 アジアの玄関口として外国人観光客が増え続けている福岡では、バーや居酒屋の併設型など「飲んで泊まれる」ホステルが相次いでオープン。かつては、懐に余裕のない旅好き学生が集う安宿の印象が強かったホステルは、おしゃれで気軽な国際交流の場に生まれ変わりつつある。

 ガラス張りのドアを開くと、聞き慣れない複数の外国語が耳に入ってくる。ビールを片手にトランプに興じる欧米系とアジア系の男性。奥では褐色の肌をした女性がパソコンに向かっている。一瞬、どこの国にいるか分からなくなる。

 福岡市博多区の大型商業施設「キャナルシティ博多」の近くにある10階建て雑居ビルの1階。

 今年3月にオープンした「ザ・ライフホステル&バーラウンジ」は、1階に多国籍料理を提供するバーと宿泊者の受付、2階には女性限定の6人部屋と10人部屋や男女混合の18人部屋(ドミトリー)などの寝室や共用のシャワー室がある。

 宿泊料金は、18人部屋の場合、1泊2380〜3360円。韓国から訪れていた観光客の金(キム)現鎬(ヒョンホ)さん(26)は「安くて清潔だし、いろんな人と交流できる。2日間泊まって友達が7人できました」と満足そうに笑った。

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 福岡県は外国人観光客の急増に加え、国内外の学術会議や有名アーティストの公演などが多く、宿泊先の不足が指摘されてきた。

 県の調査では、2015年度の県内の宿泊者数は前年度比1割増の約1128万7千人。うち外国人観光客は約123万9千人で、前年度から7割も増えた。

 ホテルや旅館の数はほぼ横ばいだが、カプセルホテルなども含めた同県内の簡易宿所数(従業員数10人以上)は5月現在の県の推計で220カ所あり、15年度から70カ所増加した。

 ホステルは、ホテルに比べて開設の初期費用が少なく、法律上のハードルも低いことが大きな理由とされる。

 ニッセイ基礎研究所の竹内一雅不動産市場調査室長は「建築資材や土地の価格が高騰し、ホテルの収益で投資分を賄うのは困難。一方、ホステルは既存建物の改修で済み、ドミトリーで大勢の客を泊められる利点もある」と解説する。

 さまざまな国籍の人々が集うからこそ、多様な価値観への配慮も求められる。

 大阪市福島区のホステル「大阪ゲストハウス・ハイブ」では、洗面所が水浸しになっていても宿泊客をとがめることはしない。「宗教上の理由で水浴びをするのだと思う」とオーナーの松田信也さん(29)。毎日午後2時に見回りをして洗面所を清掃する。

 一方で、禁煙の部屋でたばこを吸った場合の罰金をフロントで明示して、宿泊客に注意を呼び掛けている。

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 格安で泊まれるだけでなく、「楽しく交流できる宿」も売りにして増えているのが、バーや居酒屋を併設するホステルだ。

 6月、福岡市中央区にオープンしたホステル「スタンドバイミー」に併設するバーは立ち飲みスタイルで、店内には地元作家らの絵画を飾る。食事のメニューには「博多水炊き とり田」など地元料理店と連携した郷土の味も並ぶ。

 マネジャーの吉川祐樹さん(44)は「宿泊者が飲んで食べて気軽に交流できる空間が店のコンセプト。福岡の魅力にも触れてほしい」。

 部屋へ行くには宿泊客専用のドアがあり、カードキーがないと入れない仕組みで、立ち飲み客が酔っぱらってホステルに入らないようにするなど、防犯やトラブル対策も施している。

 2週間ほど滞在し、ホステルを拠点に九州を回る外国人観光客も少なくないという。人や街との出合いを演出するホステル。吉川さんは「福岡の市民も気軽に立ち寄って国際交流に参加してほしい」と話した。

https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/350466/

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バーの3階にある寝室でくつろぐ宿泊客たち=福岡市中央区のホステル「スタンドバイミー」