>>1の続き)

ここで言う特定政治家とは、日中友好政策を推進する胡耀邦(こ・ようほう)のことだ。こうした中曽根首相の姿勢に対し当時、中嶋嶺雄国際教養大学学長(現代中国学)は『神社新報』のインタビューでこう批判している。

《信念の問題でしょう。一見強く見えるけれど、どこが弱点か、中国はちゃんと見ていた。弱みを突いたら見事にぐらついた。そこが靖国問題の原点だと思う》
強固な政治的信念に欠け、状況を見て豹変する“風見鶏”と呼ばれた中曽根元首相の習性を、中国の対日強硬派は見事に見抜いていたということだ。

ちなみに、加計学園問題において安倍晋三首相を追及した前川喜平前文科省事務次官の妹の真理子さんは、中曽根元首相の長男、中曽根弘文(元外相、文部相)夫人だ。道理で親戚一同が安倍嫌いなわけだ。

韓国が日本の指導者が靖国神社を参拝することに否定的なのは、A級戦犯が“神”として祀られているのでという理由からだ。A級戦犯の罪を日本の指導者が否定することは、朝鮮人に対する残虐行為を肯定することにつながる非人道的行為という言い分である。

しかし、A級戦犯が靖国神社に合祀されたのは1978年のこと。以後、中曽根康弘首相が参拝を中止した1986年まで何人もの首相が公式参拝しているが、韓国は一度も抗議していない。A級戦犯関連は後付けの難癖だ。

A級戦犯という悪人の響きを持つ言葉を生み出した東京裁判は、以下のような“罪”を犯した者たちを裁いている。

【極東国際軍事裁判所条例第5条】

平和ニ対スル罪
通例ノ戦争犯罪
人道ニ対スル罪

このうち、1に該当する人々がA級戦犯として裁かれ、25人が有罪となり、7人が絞首刑になった。ところが、この《平和ニ対スル罪》というのは、明らかな事後法だ。

そもそも“侵略戦争”というものの意味が不明確であり、東京大空襲や原爆投下で大量の一般市民を殺戮したアメリカは、明らかに国際法に反している。アメリカの指導者及び指揮官は、3《人道ニ対スル罪》を負っているが、誰ひとり罰せられていない。

しかもA級、B級、C級というネーミングから、A級が一番悪質な罪と捉えられているが、実際にはこれは罪の等級ではない。だからB級C級戦犯のなかにも死刑になった人がいる。

テレビや映画になった『私は貝になりたい』は、捕虜を殺害したB級C級戦犯として逮捕され、理不尽な裁判で死刑を宣告される元陸軍中尉の手記に基づいた物語だ。

裁く側から言えば、B級C級戦犯の死刑がA級戦犯の死刑よりも“軽い”というわけでもない。したがってA級戦犯を分祀さえすれば、靖国神社への海外批判を交わすことができるというのは的外れなロジックにすぎない。

(おわり)