西欧は退廃しているといっていい。われわれは自由や人権という西欧の理念に基づく外交を行うことに後ろ向きになっている。それはビジネスのためだ。

ノーベル平和賞を受賞した中国の人権活動家、劉暁波氏が先頃亡くなった。中国の民主化を訴えたかどで懲役11年を言い渡され、服役中だった。劉氏は末期がんの国外での治療を望んだが、中国政府はこれを拒んだ。同氏の妻は今も自宅に軟禁されたままだ。

西側の政治家は中国に及び腰

劉氏がまさに死の床にあるときに開かれていた先日のG20首脳会議を含め、問題を取り上げる機会は山ほどあった。

だが、西側の政治家がこの問題で中国の習近平国家主席に正面切って立ち向かったことがあるとは考えにくい。

なにしろ、劉氏にノーベル賞が贈られた2010年、怒り狂った中国は苛烈な報復措置によってノルウェーを村八分にしようとしたが、ほかの西側諸国は中国を批判することもなければ、ノルウェーに真の連帯を示すこともなかったのである。

西側諸国はなぜ、中国を批判するのにこうも及び腰なのか。答えはどうやら、カネである。

ギリシャには、軍事政権に対する抵抗運動とともに育った政治家が多い。だが、財政難にあえぐ同国政府は、欧州連合(EU)が国際連合で中国の人権問題を非難するのを阻止した。

中国、とりわけ海運最大手の中国遠洋海運集団(コスコ)が重要な資金源になっているからだ。コスコは2016年8月、ギリシャ最大のピレウス港を買収している。チプラス首相は、中国に取り込まれたのだ。

外交政策の退廃が意味すること

同様の問題は、西欧の庭先でも起きている。ハンガリーのオルバン首相は「非自由主義的民主主義」(矛盾した言葉だ)を掲げ、難民排斥や市民弾圧を進めているが、EUは批判を控えている。

ポーランドの政権与党「法と正義」は、司法の独立と報道の自由を骨抜きにすべく、法改正を進めている。

トルコはEU加盟国ではないし、エルドアン大統領による独裁的抑圧が続けば加盟国となることもなかろう。だが、EUは自由の抑圧に対し一段と寛容になっている。

このような外交政策の退廃は、西欧的価値の共同体であることを標榜するEUの立場を危うくしかねない。

クリス・パッテン
オックスフォード大学総長
元英国保守党議員で最後の香港総督。欧州委員会外交専門部会委員、2003年から英オックスフォード大学総長。

http://toyokeizai.net/articles/-/183385
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