ジェイ・キャストは2017年8月25日で創業20年になった。中核事業のJ-CASTニュースは創刊から11年、独立系ネットニュースメディアとしては老舗となった。

その経験から、「読者コメントはネットを歪めるか」という質問の答えは「ノー」である。読者コメントはネット空間の大事なコンテンツだと思う。

朝日新聞は2017年7月31日付で「ネット言論荒らさせぬ」という特集記事を掲載している。ヤフー・ニュースが2017年6月から、同じ文章を短期間に繰り返し投稿する行為を制限するなどによって、「コメント欄が健全なネット言論空間になるよう、対策を続ける」(ヤフーのコメント)としている。

ヤフー・ニュースは日本最大で、圧倒的な影響力を持つポータルサイトである。多くのメディアからニュース記事を仕入れて編集、ネット空間に大量のニュース情報を配信している。

ヤフーの編集部が多様な記事を仕入れ、おすすめ記事を選び、関連記事をつけ、「よい言論空間」をつくる努力しているのはよく分かる。1、2年前には、海外ニュースで異様な記事が目立った。

海外ニュースのランキングを見ると、上位はほとんどその種類のニュースが並んでいた。中国発ニュースの翻訳、紹介だが、中国人が韓国の悪口を言っているという類のものが多く、なるほど、日本人はそういう記事が好きなのか、新聞の国際ニュース面とは全く違うなあと思った。

この種の記事は今のヤフーでは見られない。排除されたのだろうが、ヤフーはこれについてコメントしていない。

「よい言論空間をつくる」と言った場合、配信記事だけではなく、読者のコメントも重要な要素である。ヤフーへのコメント投稿は1日20万件を超えるといわれ、これを思い通りに編集することは、プログラムの助けを受けても至難の業だ。

一つの記事に、あっという間に数百のコメントが付く。一般読者は最初の画面に表示されるコメントを読むのが精いっぱいだから、早く投稿されたコメントの閲覧数が極端に多くなる。

ヤフーに限らないが、コメントを素早く投稿する人たちがいて、それに続くコメントの傾向を左右している。ヤフーの場合は短いコメントが多く、イエス、ノーの傾向に大きな影響を及ぼす。

ヤフー編集部が、これを何とかしたい、もっと普通の言論空間にしたいという気持ちはよくわかる。止めてしまいたいと思うかもしれないが、ネット双方向性、読者にオープンな編集を考えると、そうはいかないだろう。今回のコメント制限は窮余の策と言える。

J-CASTニュースは創刊から読者コメントを掲載してきた。すべての投稿を編集部で見て、誹謗、中傷や差別的発言を非掲載としている。見落としもあるし、あえて掲載する場合もある。「これは削除だろう」というコメントが掲載されているのも、承知の上である。

1日数百本の投稿だから編集が可能となっている。一人でいくつものカウントを持って投稿している人がいる。「工作員」と呼ばれる人の存在もわかっている。これは間違いだな、と思う投稿も掲載する場合がある。

政治的に意見が分かれる記事に対するコメントは、内容についての意見が大きく分かれ、読者同士の討論が広がり、続き、激しい応酬もある。この過程で、誤った認識、情報が正され、少なくとも一般読者が見ると正否が判定できる場合が少なくない。

編集部が指摘、修正するより、投稿・討論を読んで判断ができるのは素晴らしいことだと思っている。投稿者が連続して投稿する機会を摘んでしまうと、討論が成立しない。

一つの記事に長年、討論が続いている例もたくさんある。たとえば、「養老孟司超刺激発言『禁煙運動はナチズム』・・・」は10年前、2007年9月の配信だが、賛成者と反対者の討論は今年になっても続いている。コメント件数は2200件を超す。これも素晴らしいことだと思っている。

最近、死亡記事のコメント欄を「追悼」とした。寄せられる投稿は、コメント欄の時代から変化した。亡くなった人に対する読者の気持ちが投稿される。著名人に対して思いがけない体験を持つ人もいる。記事を補足する情報が読者から思い出として投稿される。

https://www.j-cast.com/2017/08/25306652.html

>>2以降に続く)