東芝の経営難やシャープの身売りのほか、最近も富士通の携帯事業売却が報じられるなど、日本の電機メーカーの苦境が目立っている。

東芝は、経営トップが関与した事実上の粉飾決算を2009年頃から行っていた。こうした経営風土の問題もあるが、当時は政府と日銀の金融政策への無理解から、強烈な円高になっていた時期でもある。粉飾は経営トップとして決して許されないことだが、円高が圧力になっていたことは否定できない。

シャープが陥っていた経営不振は、円高の時、白物家電などの生産拠点を海外に移転したために、その後の円安が他社はメリットとなったのに、シャープではデメリットだったことも背景にある。

それに加えて、シャープは歴史的に、韓国のサムスン電子に技術提供しすぎていた。09年頃からの円高ウォン安で、シャープの液晶事業・半導体事業は大幅な赤字になった一方、サムスンは同程度の技術で価格競争力が一気に高くなり、逆転したという経緯も忘れてはいけない。

富士通の携帯事業はどうだろうか。携帯市場では2000年代の初めには日本勢は11社もあった。ソニー、京セラ、富士通、シャープ、パナソニック、三菱電機、東芝、三洋電機、NEC、カシオ、日立だ。

現在、携帯事業を営んでいるのは、このうちソニー、京セラ、富士通、シャープだけだ。パナソニックは13年、三菱電機は08年、東芝は12年、三洋電機は08年、NEC、カシオ、日立は04年・10年に経営統合したが結局7社はそれぞれ撤退し、今回の富士通の撤退という話が出ている。

業界の栄枯盛衰を書くときに、どうしても個別企業の事情に言及せざるを得ないし、その方が物語としては面白いので、各社に共通するマクロ経済の環境変化、特に家電業界を左右する為替動向は無視されがちだ。

しかし、業界全体の動きをみれば、いかに円高になってから各社で経営見直しの統合や撤退が行われたかが分かるだろう。ちなみに、家電業界の売上高と為替の相関は8割もある。いってみれば為替相場いかんで業界業績が左右される。円高が放置され続けて、体力のないところから「刀折れ矢尽きた」状態だ。

そして、円高になると韓国など海外ライバルが競争力をもってビジネス市場を奪ってしまうので、その回復はなかなか難しい。さらに、円高でいったん生産施設を海外に移すと、円安になっても、収益こそ海外投資が好転して何とかなるものの、国内雇用は回復できず国内技術基盤も失われてしまう。

こうした意味で、09年当時の円高放置は間違っていたと言わざるを得ず、政府と日銀が金融政策に無理解だった罪は大きい。

ただし、覆水盆に返らずだ。今後日本メーカーについては、例えば、羽のない扇風機や吸引力が落ちない掃除機を開発した英ダイソン社のように、価格競争力でない技術を持った企業が生き残れるのだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170829/soc1708290003-n1.html
http://www.zakzak.co.jp/soc/news/170829/soc1708290003-n2.html