もはや一線を超えている

北朝鮮が日本上空を横断する弾道ミサイルを発射した。専守防衛の日本に有効な対応策があるかといえば、米国と連携して経済制裁を強めるくらいしかない。左派勢力も日米同盟の死活的重要性をかみしめるべきだ。

安倍晋三首相は8月29、30の両日、トランプ大統領と電話会談して対応を協議した。両首脳は北朝鮮への石油輸出禁止を含めた新たな国連制裁決議の可決を目指して、中国とロシアに働きかける方針で一致した。

トランプ大統領は「米国は北朝鮮と25年間、対話し、カネをゆすり取られてきた。対話は解決ではない」とツイッターに書き込んだ。そのうえで「すべての選択肢はテーブルの上にある」とあらためて軍事的手段による解決も示唆した。

金正恩・朝鮮労働党委員長は朝鮮中央通信を通じて、今後も太平洋への弾道ミサイル発射を続ける方針を明らかにした。「グアムをけん制するための意味深長な前奏曲」と述べ、米領グアムへの射撃も断念していない。

日本上空を超える弾道ミサイルを発射したのは、従来とレベルの違う挑発である。BS放送を含め早朝のテレビは全局、Jアラートの速報を流したことで、国民の危機感も一段と高まっている。

日本単独ではどうしようもない

深まる危機に日本はどう対応できるのか。現状を整理してみよう。

まず、北朝鮮がいくらミサイルを発射しても、日本は専守防衛の建前から法的に領土・領海そのものが狙われなければ反撃できない。これが基本だ。これまで北朝鮮がミサイルを日本の排他的経済水域(EEZ)内に着弾させたことは何度もあるが、領土・領海にはない。

自衛隊法は第82条の3で、自衛隊が弾道ミサイルを破壊できるのは「(ミサイルの)落下による我が国領域における人命と財産に対する被害を防止するため必要があると認めるとき」と定めている(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S29/S29HO165.html)。「我が国領域」とは日本の領土と領海である。

EEZ(沿岸から200海里、約370キロ)は日本が主体的に経済活動を行える海域ではあるが、主権が及ぶ領海(同12海里、約22キロ)ではない。だから撃ち落とせない。ただし、領土と領海が狙われた場合は、領海上空はもちろんEEZを含む公海の上空であっても、撃ち落とすことができる。

逆に言えば、北朝鮮はミサイルを撃墜されないように、注意深く日本の領土・領海を避けて発射していると言える。米領グアム近海への弾道ミサイル発射を予告した際も「グアム周辺30?40キロの海上」に落とすと言っていた。

これも米国の領海を避ける意図だろう。米国を相手に領海を狙えば、たちまち報復されてしまう。

領海でなくても上空を飛ぶ航空機や海上の船舶が危険なのは言うまでもないが、理屈のうえでは、日本はミサイルに領土・領海の上空を通過されても、着弾地点として太平洋上を狙っている限り、迎撃できないのだ。

日本の領土・領海が狙われて人命や財産に被害が及ぶ危険があれば、ミサイルを破壊できる。その場合、イージス艦から発射するSM3や陸上で発射するPAC3の迎撃ミサイルで対応する。それでもミサイルを一斉射撃(飽和攻撃)されたら、すべては撃ち落とせないというのが専門家のほぼ一致した見方だ。

政府はミサイルが上空を飛んだ8月29日早朝、Jアラートで国民に避難を呼びかけた。それにも限界がある。避難先確保が難しいうえ、そもそも警報に気づく国民がどれほどいるか、という問題もある。

日本がいま単独で可能な対応はここまでだ。残るは経済制裁だが、これは単独で実施しても意味がない。だからこそ日本は米国と連携して国連で各国に制裁を呼びかけている。

反撃できるのは米国だけ

ミサイル発射基地を直接たたく敵基地攻撃能力の保有について、自民党は政府に検討を促しているが、安倍首相は記者会見で「現時点で具体的な検討をする予定はない」と語っている。とはいえ、ここまで危機が深まれば検討するのは当然だろう。

仮に敵基地攻撃能力を保有すると決まっても、一朝一夕にはいかない。

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52753

(続く)