雨ばかり続いた8月の末。今度は天から物騒なものが、襟裳岬の東方約1180キロ地点に落下してきた。飛行距離約2700キロ、高度約550キロを飛んできたそれは、まごうことなく北朝鮮から飛来した弾道ミサイルだった。

「これまでにない深刻かつ重大な脅威で、地域の平和と安全を著しく損なうものだ。国民の安全、安心の確保に全力を期す」(安倍晋三首相・62)

という声明が出たのも、むべなるかな。

北朝鮮の<ミサイル>が日本上空を通過するケースは初(注1)。もはや危機というより実質的に戦争状態だけに、日本政府も迅速に対応。ミサイル発射を確認すると同時に全国瞬時警報システム(Jアラート)で発射情報と通過情報を発信した。早朝にスマホ等から警告音が鳴り、一部の電車が止まるなど緊迫した状況となったのは周知の通り。

場合が場合だけに致し方ないことだと思うが、これに不満を漏らし、批判する方々がいた(注2)。

「マジでこんなんで起こすなクソ」(実業家・堀江貴文氏・44)

「アラートが出てから、日本上空を通過したのが5分後。どうすりゃいいの?って」(キャスター・安藤優子氏・58)

「(アラートと上空通過の時間を挙げ)これが実態(であって役に立たない)」(衆院議員・上西小百合氏・34)

「何やらおどろおどろしい。ちょっと騒ぎ過ぎ。北の脅威を煽っているものがいるのか」(元ジャーナリスト・鳥越俊太郎氏・77)

などなど。これらは一部であり、ワイドショーなどでは軒並み、「騒ぎ過ぎ」「Jアラートの有効性に疑問」「税金の無駄遣い」というトーンで疑問視する報道が多かった。

■どこに向けて怒っているのか

確かにJアラートによる混乱はあった。7道県の16市町村でうまく情報が伝わらなかったり、「地下に入れと言われても地下施設がない」という過疎地住民の声にどう応えるかという課題も……。しかし「無意味」というのはインネンの類だろう(注3)。

安全保障とは1%、0.1%の「もしも」を考えるものであって、不測の事態が起こらなければ「良かった」で済ませればいい。その積み重ねが5分の間にできることを増やし、身を護るための危機意識を醸成する。

──それにしても。古今東西を見回しても、ミサイルで国土を脅かす<敵>をまるで非難せずに自国を責め、<敵>への最大限の配慮と忖度を求める言説や報道があふれる国は珍しい。果てしなくノンキなのか、それともスパイだらけなのか。

「<北朝鮮に戦争する気は無く、威嚇に過ぎない>という人が居ますが、仮に現時点でそうだとしてもミサイルの精度は上がり、次の核実験も確実視されている。どこで双方の目論見がズレるか分からず、戦争とはそうして起こるもの。東アジアの緊張は緩和されていないし、<日本にミサイルが着弾しない>と言い切れる根拠は無い」(軍事ジャーナリスト)

Jアラートに文句をつけた<こんな人たち>。鳴らさなければ鳴らさないで、彼らは「政府は国民を護っていない」と言い出すに違いない。そんなに自国が気に入らないならば、北朝鮮に渡って日本と戦えばいい。

(注1)日本上空通過…これまでにも何度かあるが、ミサイルではなく<人工衛星>という扱いだった。
(注2)批判する方々…文意は変えないように、一部を省略した。
(注3)インネンの類…<税金の無駄遣い>論は、Jアラートが対ミサイルだけと思っている人に拠るが、地震や大規模災害にも応用される。

田中ねぃ コンテンツプロデューサー
東京都出身。早大卒後、新潮社入社。『週刊新潮』『FOCUS』を経て、現在『コミック&プロデュース事業部』部長。本業以外にプロレス、アニメ、アイドル、特撮、TV、映画などサブカルチャーに造詣が深い。Daily News Onlineではニュースとカルチャーを絡めたコラムを連載中。愛称は田中?ダスティ”ねぃ

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