社説

来年度予算概算要求 「軍拡」「看板政策」の膨張検証を

2018年度予算の概算要求が出そろった。

一般会計の要求総額は101兆円前後。17年度当初予算を4兆円近く上回り、4年連続100兆円を超えた。年末の予算編成までに財務省は3兆円程度の圧縮を目指すが、膨張傾向に歯止めがかからない。

殊に、安倍政権下で5年連続予算額を増やしてきた防衛省は過去最大の5兆2551億円を要求した。北朝鮮の脅威を利用したどさくさ紛れの「軍拡」と政権のアピールにつながる「看板政策」絡みの事業への大盤振る舞いに、財政規律のたがの緩みへの懸念と危機感が募る。予算の重点化や効率化、方向性への厳しいチェックを求めたい。

各省庁がこぞって並べ立てた要求からは、歳出の無駄削減や政策の絞り込み、財政再建に取り組む機運は感じられない。政権は「20年度の財政健全化目標の達成に向け歳出改革に取り組む」(菅義偉官房長官)と豪語するが、「実感なき景気拡大」にあぐらをかいて大盤振る舞いを続けていては達成は不可能。中長期的展望を直視し、予算に堅実に反映させねばならない。

予算にめりはりを付ける名目の優先課題推進枠(特別枠)も膨張の誘因だろう。1億総活躍や人づくり革命、働き方改革と次々変わる看板政策に絡め、既存メニューの焼き直しや似た事業が上乗せ要求されている。

厚生労働省は「働き方改革」関連の事業に約2800億円を計上。例えば「同一労働同一賃金」推進のため事業主への助成金を拡充し、産業別導入マニュアルをつくるという。育児中の女性らの「学び直し」支援は、文部科学省が学び直しに取り組む大学や専修学校の支援に44億円を要求。肝心の「働く側」に直接的に届く施策は少ない。

政権が掲げる待機児童解消も1397億円を盛り込み9万人分の受け皿確保を目指すが、新たに必要な約500億円は財源のめどが立たない。鳴り物入りの教育無償化も、今回は金額を示さない「事項要求」。試算では4兆円超の追加財源を確保できなければ画餅に終わろう。

防衛省は買い物三昧。地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」は金額も未定で、最新鋭ステルス戦闘機6機、新型輸送機オスプレイ4機も。北朝鮮の弾道ミサイル発射に対処できる可能性は極めて低く、急激な装備増強が不安をあおって地域の安定をかえって損なう危険性もある。不祥事続きの防衛省の焼け太りには異を唱えたい。

一方で、総務省が地方交付税を「国も苦しい」からと4千億円減らした。内閣府は沖縄振興費3190億円のうち、県側の使途の自由度が高い「一括交付金」を減らし、公共事業関係費を増やした。地方創生どころか地域の自主性も妨げかねない。

働く人、支えが必要な人の暮らしの安心を、どう守るか。政府はその原点に立ち戻り、税金で優先的になすべきことをしっかりと見極めてもらいたい。

ソース:愛媛新聞 2017年9月3日(日)
https://www.ehime-np.co.jp/article/news201709035893