地軸
言う人、言わない人

2017年9月4日(月)(愛媛新聞)

 風の色が一変し、緑陰に入ればひんやり心地よい秋の到来。 だが近ごろは、ひんやりを通り越してぞくりと寒気も▲

 祭りの参加者は「気違いみたいな人ばかり」―失言の人・麻生太郎副総理兼財務相が、西条市の講演で信じ難い差別的表現を口にした。すぐ撤回したが、発した言葉は消せない▲

 先週「何百万人を殺したヒトラーは、いくら動機が正しくても駄目」と発言、撤回したばかり。4年前は改憲問題でナチス政権を引き合いに「手口を学んだらどうか」と言い放った。政治家は「言葉の人」。なぜ不穏な言葉が漏れ出るのか、本音を想像すればさまつなこと、とは到底思えない▲

 逆に「言わない言葉」が雄弁にその人を物語ることも。安倍晋三首相は全国戦没者追悼式で5年続けて「不戦の誓い」の文言を外した。小池百合子都知事は、関東大震災の朝鮮人犠牲者追悼式への追悼文送付をやめ、虐殺の有無を問われても「さまざまな見方がある」「歴史家がひもとくこと」と頑として認めない▲

 震災直後、数千人が軍や自警団などに殺された事件は、国も報告書で認める「負の歴史」。なかったことにしようとするなら、差別容認にもつながる▲

 ついには自民党の竹下亘総務会長が、北朝鮮のミサイル発射計画を巡り「広島はまだ人口がいるが、島根に落ちても何の意味もない」と述べた。「言う人」の恐ろしさ、「言わない人」の冷酷。今年の秋は心までしんと冷え渡る。

https://www.ehime-np.co.jp/article/news201709045999