2017年9月9日 7時0分
NEWSポストセブン

 今年の夏に韓国で公開された映画『軍艦島』は、史実と異なり荒唐無稽にすぎること、配給会社によるスクリーン寡占状態などで韓国国内でも非難され、今夏いちばんのヒット作にはならなかった。とはいえ、いちばんの話題作であることは事実であろう。文在寅大統領の暴走も泊まらず、かつて韓国政府がみずから消滅を決めた徴用工の個人請求権まで容認してしまった。ジャーナリストの櫻井よしこ氏が、国と国との約束が守れぬ国と、どう付き合うべきかについて論じる。

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 そういう国なのだとしても、7月下旬に韓国で封切られた映画『軍艦島』の虚偽と捏造は、予想をはるかに超えるレベルのものでした。

 映画で、強制連行された徴用工はあまりの過酷さに集団脱走を試み、日本人と壮絶な戦いを展開します。家族連れで島に連れてこられた女性や女児は遊廓で働かされ、反抗すれば罰として全身に入れ墨を入れられます。

 なかには女性が無数の五寸釘が突き出た戸板の上を転がされ、血だらけで殺されるシーンもあります。もちろん日本にはこのような拷問の文化はありません。元になっているのは国連のクマラスワミ報告書で、北朝鮮の慰安婦の証言として、五寸釘や入れ墨の話が出てきます。

 証言の出所のひとつは、紀元前500年から紀元後1000年までの中国の歴史を北宋の司馬光がまとめた『資治通鑑』だと考えられ、どの王朝のどの皇帝がこの刑罰を初めて行ったということが書かれています。

 また、クマラスワミ氏は英語の文献として唯一、オーストラリアのジャーナリスト、ジョージ・ヒックス氏の『性の奴隷 従軍慰安婦』を参考にしていますが、藤井実彦氏は同書が金一勉という人物が書いた『天皇の軍隊と朝鮮人慰安婦』に依拠することを突き止めました。さらに驚くことに、金氏の著書は『週刊大衆』や『週刊実話』などに掲載された官能小説や漫画、猟奇小説に依拠していました。こんなデタラメな国連報告書が、今もなお日本を苦しめ続けているのです。

『軍艦島』の描写からは、日本に「ホロコーストの国」というレッテルを貼ろうとの意図が明らかに見てとれますが、韓国・中国のみならずドイツまでもが「日本も自分たちと同じように酷いことをした。しかも反省していないからもっと悪い」と同調しています。日本人にとってはあまりにも荒唐無稽で、「こんな話は誰も信じないだろう」と思ってしまいがちですが、放置していては欧米社会にまでデタラメな歴史が浸透してしまう危険性があります。

 軍艦島が世界文化遺産に登録された直後の2015年7月6日、南ドイツ新聞は電子版記事で「強制連行された労働者が虐待された」「強制労働者1000人以上が島で死んだ」と報じました。軍艦島(端島)の旧島民たちはこの記事に怒り、今年1月23日、「真実の歴史を追求する端島島民の会」を結成し、南ドイツ新聞に抗議しました。

 軍艦島では日本人と朝鮮人が同じコミュニティで仲良く暮らし、危険な採掘には熟練した日本人が当たったとも旧島民は言います。しかし南ドイツ新聞からは梨のつぶてです。

 日本は一刻も早く官邸直属の情報発信センターを設置し、韓国だけでなく、アメリカをはじめとする国際社会に向けて、慰安婦や徴用工の真実を粘り強く発信し続けることが必要だと思います。

 日本がどんなに韓国と友好関係を築こうと思っても文在寅大統領の姿勢が変わることはなく、韓国は強大な力を持つようになった中国にさらにすり寄っていくでしょう。一方で、アメリカはトランプ政権下で力を弱めていくことが予想されます。日本は経済力に加え、自らの手で自国を守る力を持つことが急務です。

 白村江の戦い(663年、すでに滅亡していた百済の復興を手助けするために唐と新羅の連合軍との戦)で敗れた日本は、国防の重要性を知り、唐・新羅連合の日本侵攻に備えた体制固めを進めました。敗れても独立国家としての気概を保ち続けた、先人の歴史に今こそ学ぶべきだと考えます。

※SAPIO2017年10月号
http://news.livedoor.com/article/detail/13588168/