【時代の正体取材班=田崎 基】県は20日、北朝鮮の弾道ミサイルを想定した避難訓練を実施すると発表した。26日に、県総合防災センター(厚木市下津古久)で、消防学校の生徒とその保護者約500人を対象に行う。県が単独で主催する初のミサイル避難訓練となる。

県は訓練の必要性について「全国瞬時警報システム(Jアラート)の意味を知ると共に、警報が発令された際の迅速な避難行動が不可欠」としている。

26日は、消防士になるために必要な初任教育を受けている生徒が行う訓練成果を披露するイベントに合わせて実施。参観に訪れた保護者も参加する。担当者は「Jアラートを放送し、建物内に避難し、頭を抱えてしゃがみ込んでもらう」と話している。

ミサイル訓練を巡っては、北朝鮮による発射実験が繰り返されていることから政府は4月、全国の自治体担当者を集め避難訓練を実施するよう通知を出した。これを受け全国の自治体が、国などと連携し既に約30カ所で住民や児童・生徒を対象に実施。

県内では8月22日に平塚市で行われ、次いで横浜市も9月3日に実施した。ただ、識者からはこうした訓練について有効性や影響を懸念する声が上がっている。

効果疑問「外交努力を」専門家

ミサイル避難訓練の実施については複数の識者が、その有効性を疑問視したり、住民に与える影響を懸念したりしている。

8月29日と9月15日に北朝鮮がミサイルを発射した際に政府は、南は長野県、北は北海道という極めて広範囲にJアラートを発報した。15日のミサイルは実際には襟裳岬の東約2200キロに落下。発射数分では落下地点をほぼ絞り切れないことを露呈した。

その危険性を適切に評価・検証せず、十分な説明もないまま訓練を繰り返すことについて政治学者の中野晃一上智大教授は「全国で訓練を実施するほど危機的状況にもかかわらず政府は東京五輪を開催し、原発を再稼働し、衆院を解散すると言っている。矛盾極まりない」と話す。

また小中学校でも実施されていることから「子どもが実態以上に北朝鮮を恐れ悪魔化しかねない。偏見も含め恐怖を植え付ける可能性がある」と問題視している。

安全保障に詳しいジャーナリストの布施祐仁さんは訓練より重要なことがあると指摘。「究極的な『万が一』に備え訓練が全く無意味とは言い切れない」としつつ、「ただ北朝鮮が保有する弾道ミサイル『ノドン』は数百発に上る。日本のミサイル防衛システムは『イージス艦』と『PAC3』の2段態勢だが北朝鮮が一斉に発射すれば撃ち落とし切れない」と解説する。

実際に日本が標的になれば甚大な被害は避けられないことから「訓練以上にいま重要なのは外交努力。攻撃対象になり得る基地を抱える神奈川県として住民の安全を真剣に考えるなら、政府に対し緊張緩和に向けた外交努力を求めるのも重要だ」と話している。

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