10日、衆議院選挙の公示が行われ、選挙戦が本格的にスタートした。ソウルに住む筆者は韓国での報道をウォッチする中で、日韓メディアのある共通点に気が付いた。

「自民、希望、どっちが勝っても右傾化する」

韓国における今回の日本の総選挙の扱いは、ようやく大きくなってきたところだ。

現在、韓国最大の関心事は米朝関係である中、米国の同盟国である日本の北朝鮮政策は独自性に欠ける点や、衆議院が解散した28日の翌々日から韓国が10連休だったことなどが重なり、盛り上がりに欠けていた。

とはいえ、韓国で日本の総選挙を眺める視点は画一的だ。テーマは「改憲」、そしてその方向は「右傾化」との位置づけにとどまる。

どういうことか。いくつか例をあげてみる。

韓国最大の通信社・聯合ニュースは10月10日付の報道で「今回の選挙でどのような結果が出ようとも、平和憲法の改定を通じ、日本が『戦争ができる国』へと変身する流れは強まると見られる」と分析した。その理由は「自民党と希望の党いずれも改憲を公約にしている」点とする。

日刊紙・中央日報も8日付の記事で「自民党は全国単位の選挙戦で、はじめて『改憲』を全面に押し出した」という点を強調した。さらに「一見、希望の党は安倍内閣と対立しているように見えるが、外交安保分野では相当に近い路線だ」と分析している。

同様に日刊紙・東亜日報も11日付の記事で「安倍総理が再び集権に成功しようが、小池知事の側が善戦し希望の党中心の連立政権が誕生しようが、新政権は極右の色から逃れるのは難しいと展望できる」とした。

上に挙げた3つのメディアは保守色の強いメディアである点を付け加えておく。

一方、進歩(革新)派の日刊紙・ハンギョレも9月28日付の記事で「今回の政界再編は、日本を保守与党と、リベラルの野党が対決する構図ではなく、保守与党と別の保守野党が競争するという構図をもたらす」と整理した。

さらに「希望の党は関東大震災における朝鮮人虐殺を否定し、平和憲法改定に賛成する極右性向を持った小池百合子都知事が代表にいる」と位置づけた。

「社会」が消えた選挙報道

言わずもがなであるが、過去、日本は朝鮮半島を植民地化し、経済や文化をはじめ多くの収奪を行った。太平洋戦争に日本が負け、南北朝鮮政府が樹立したが、すぐに起きた朝鮮戦争において、日本は米国の前哨基地となり戦争の一翼を担った。

こうした歴史的な背景から、平和憲法に「自衛隊」を明記する動きに韓国が敏感になるのは当然だ。朝鮮半島有事の際、集団的自衛権の名の下(そうでない場合もあろうが)、再び「日本の軍隊」が朝鮮半島の地を踏むことに対する精神的なアレルギーは今も強い。

とはいえ、もう少し日本の社会の動きに関心を持つべきでは、と筆者は思う。地方分権、少子高齢化、税金の分配、脱原発、福祉などは日韓社会の共通したテーマであり、今後、知恵を出し合って解決していく問題である。

これをすっ飛ばして「改憲」だけにテーマをあわせる韓国の報道を物足りなく感じる一方、そういえば、日本でも似たようなことがあったと思い出した。

日本のメディアの多くが今年5月の韓国大統領選挙の際に、韓国の大統領候補を「親日」か「反日」のみで判断していなかったか。韓国が抱える社会問題を面白おかしく扱い、民主主義や格差是正の主張を掲げ路上に出る人々を「未発達の民主主義」と冷笑していなかったか。

ただ、幸いなことに今はインターネットがある。新聞・テレビという紋切り型の既存メディアには改善を求めつつ、別のところで「国」ではなく「社会」、そして「人」を見る視点を育んでいきたいところだ。

徐台教
ソウル在住ジャーナリスト
群馬県生まれの元在日コリアン3世。韓国・高麗大学東洋史学科卒。1999年から延べ15年以上ソウルに住みながら、人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年、韓国に「永住帰国」すると同時に独立。
2017年5月からは韓国政治、南北関係を扱う日本語オンラインニュース「The Korean Politics(コリアン・ポリティクス)」を創刊し、現在は編集長。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20171011-00076801/