米国のトランプ大統領は10日、北朝鮮が今後新たな挑発行動に乗り出した場合に使用する軍事オプションについてマティス国防長官と意見を交換した。直後にホワイトハウスは「マティス長官からの報告と意見交換のポイントは、北朝鮮によるいかなる攻撃にも対応が可能で、核兵器の脅威を阻止するためのさまざまなオプションがあるということだ」と説明した。ちょうどその頃、米国の戦略爆撃機B1Bは東海(日本海)だけでなく西海(黄海)でも爆撃訓練を行った。ところがその一方でこの日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は最近の安全保障上の危機について「韓国が中心になって何かをできる状況ではない」と発言した。文大統領は今年7月にもこれと同じような趣旨の発言を行い、無力な立場にある自国を嘆きながら「韓国に(現状の危機を)解決できる力はなく、また何らかの合意を引き出す力もない」と述べた。

 もちろん文大統領によるこれら一連の発言は理解できなくもない。北朝鮮は韓国を足蹴(あしげ)にし、米国に自分たちとの直接交渉に応じさせるため、米国を直接狙う核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発を進めている。これに対して米国は「北朝鮮の核・ミサイル開発は絶対に容認しない」と言い続けている。中国とロシアは今の緊張状態について「米朝両国に責任がある」との立場だ。これらの国々はどこも核兵器を手にし、それによって自国の意志を最後まで貫徹しようとしている。これに対して核兵器を持たず、安全保障を全て米国に委ねた韓国が影響力を行使できる範囲が非常に限られるのは当然のことだ。

 この絶体絶命とも言える国家的危機の中、韓国軍の統帥権者である文大統領が公の席で自国の無力さを嘆くのは、たとえそれが事実だとしても決して望ましいことではない。大統領は国家と国民を守る大きな責任を持っている。韓国軍の最高司令官である大統領が「できることは何もない」とうなだれてばかりでは、前線に立つ兵士たちは誰を信じて戦えばよいのか。また他国は韓国についてどう考えるだろうか。韓国人の生命が懸かった重大問題で、韓国そのものは完全に脇役に追いやられてしまうのか。

 文大統領の無力感についての告白は実は自業自得の側面も大きい。まず戦術核兵器の再配備や独自の核武装など、韓国として考えられる対応は全て自ら放棄した。これらを実際に推進はせずとも、戦略的NCND(肯定も否定もしないこと)によって交渉力を維持することくらいはいくらでもできたはずだった。自分の手足を自分で勝手に縛り上げ、その上で「できることはない」と言っても何ら説得力はない。今からでも「最悪の状況に備えることが大韓民国大統領の責務」と一言でも言えば、状況は大きく変わるだろう。文大統領はつい先日まで「韓半島(朝鮮半島)の運転席に座る」と大言壮語していたが、実はこの言葉自体が文大統領の現状認識の甘さと、幻想にとらわれていた事実を示すものに他ならなかった。今後もこの幻想から抜け出すことができなければ、運転席どころか助手席にも座れない事態に直面するだろう。

 しかもこの日、韓国大統領府は最近の危機的状況をもたらした北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長をではなく、トランプ大統領と米国を批判するある小説家の言葉をフェイスブックに掲載した。もちろんトランプ大統領の言行を強く支持する国民はそう多くはないだろう。しかしトランプ大統領が北朝鮮の核開発を阻止しようとする人物であることだけは間違いない。文大統領がこの小説家と同じ考えを持っているとすれば、文大統領の無力感は北朝鮮の核問題に対するものではなく、米国の行動を止められないことに対してのものになるが、果たしてそれは本当だろうか。

 韓国では今も多くの国民が不安を感じている。米国が北朝鮮の核開発を阻止できなければ、5100万人の国民は金正恩氏の核により奴隷として生きていくしかない。しかし米国が北朝鮮の核開発を阻止するための軍事攻撃に乗り出せば、間違いなく戦争が起こるだろう。国民の誰もが「今後どうなるのか」と不安に駆られているが、このような状況で国民が頼れるのは大統領しかいない。一寸先が闇の状況でこそ、大統領は国民に進むべき道を提示し、先頭に立ってほしい。ところが大統領は今「何もできない」と嘆くばかりだ。もしこの言葉が今後も繰り返されるようでは、大韓民国は「船長のいない船」になってしまうだろう。

2017/10/12 10:19 朝鮮日報/朝鮮日報日本語版
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