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鈴置:「助けなかった」どころかIMFに行かせるために「追い込んだ」と言った方が正確です。IMFは米国の息がかかった組織です。その管理下に置けば自由自在に料理できる。実際、“GHQ”として振る舞ったわけです。

 旧・東京銀行で長らくアジアを担当した愛知淑徳大学の真田幸光教授の発言が興味深い。「『人民元圏で生きる決意』を固めた韓国」で、話題が「米金融当局が日本の対韓スワップを止めた」ことに及んだ際、真田幸光教授はノータイムで以下のように語りました。

・本当に止めたのは、ペンタゴン(国防総省)、あるいはホワイトハウスかもしれません。米韓関係は相当に悪化していましたから。

 国際金融界も、韓国のIMF救済の背景には「米国に対する軍事的裏切り」があったと見ているのです。外交の相場観からも「貿易摩擦」の報復として、手術台に載せるほどの厳しいお仕置きをするとは考えにくい。

北の将軍も知っている

韓国は「米国のお仕置き」に懲りたのでしょうか。

鈴置:全く懲りませんでした。左派政権が誕生すると、今度は北朝鮮に接近しました。金大中(キム・デジュン)政権(1998―2003年)と、それに続く盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権(2003―2008年)は南北首脳会談を開いてもらう一方、北朝鮮には低姿勢で接しました。

 金剛山観光や開城工業団地を通じ、外貨も送り続けました。北朝鮮の核武装を韓国が幇助したのです。外貨だけではなく、軍事機密も送っていたのではないかと疑うのが韓国保守の論客、李度?(イ・ドヒョン)氏です。

 日本語だけで出版した『韓国は消滅への道にある』(2017年9月刊)の「1章 軍事同盟の崩壊が始まる」で、興味深いエピソードを紹介しています。

 2005年春、ラポルテ(Leon J. LaPorte)在韓米軍司令官の離任パーティで李度?氏は、司令官本人から「(米韓連合司令部の)副司令官の韓国陸軍大将は素晴らしい軍人で情報を共有できた。しかしもう1人のコリアンの将軍がいて、この人も米韓軍の情報を共有していることが後になって分かった」と聞かされたのです。

 「もう1人のコリアンの将軍」とは北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記のことです。李度?氏は以下のように嘆きました。20−21ページから要約します。

・2000年に入ったころから、北朝鮮の諜報機関は間諜を南派する必要性を感じなくなっていただろう。外部から韓国軍内部に要員を浸透させなくとも、情報を容易に入手できるようになったからだ。
・韓国の大統領の意向ひとつで、韓米連合軍の日々のトップ・シークレットも北朝鮮の最高責任者、当時は金正日国防委員長の机の上にすぐに置かれることになる。

 ラポルテ在韓米軍司令官は離任にあたり、韓国の左派政権に「北と内通するな。お見通しだぞ」と警告を発したのです。

機密を渡せば問題解決

韓国に警告は届いたでしょうか。

鈴置:届かなかったようです。朴槿恵(パク・クネ)政権(2013―2017年)時代に驚くべき記事を読みました。中央日報のチェ・ヒョンギュ北京総局長が書いた「金章洙を眺める中国の相反する視覚」(2015年2月17日、韓国語版)です。

 在韓米軍基地にTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)が配備される前でしたが、すでに韓国は配備を要求する米国と、反対する中国の間で板挟みになっていました。

 2015年2月、朴槿恵大統領は国防長官や青瓦台(大統領府)国家安保室長も務めた側近の金章洙(キム・ジャンス)氏を駐中大使に任命、問題の打開を図りました。チェ・ヒョンギュ総局長は金章洙氏にかける韓国政府の期待をこう、書いたのです。

・中国が期待するのは韓国軍との協力を通じ、米国の作戦と武器体系に対する認知の強化だ。特に韓国海軍との協力を通じ、米海軍への認知度を上げようとしている。
・韓米連合司令部の副司令官を務めた金章洙氏の経歴は米国の指揮のやり方を間接的に学ぶのに助けになる。
・だから金章洙氏は中国の指導部が接触を望む史上初めての駐中大使になる可能性が高い。

 米国の軍事情報を渡す見返りに中国指導部に食い込み、THAAD問題を韓国に有利に解決できる、とこの人選を褒めちぎったのです。

裏切りの自覚なし

 チェ・ヒョンギュ総局長ほど露骨な書き方ではありませんでしたが、北京駐在の韓国記者は一斉に同じトーンで書きました。駐中韓国大使館が「米軍情報と引き換えに懸案を解決する方針」とレクチャーしたと思われます。

 さらに驚いたのは、こうした記事に対し「米国との関係が悪化するぞ」と声をあげる韓国人が出なかったことです。

(続く)