かーちゃんが俺にとってのひいひいばあちゃんから昔聞いた話なんだそうだけど、関東大震災から
逃げて来た人の話。
今でも伝えられる通り、被災者は大地震の後道路を埋め尽くしたリアカーまで火事になって、生き
残った人はほとんど何も持ってなかった上、怪我したりなんたりでもう体力も気力も何も残ってな
かったって。
確かに『毒を入れた』的な噂は、多少あったらしい。何でも新聞に載ってたからで、今で言うフェ
イクニュースになるのかな……?だったら、当時の新聞は酷いとしか言い様が無い。
そこで俺は自然に考えた。
そんな噂を聞いた所で、すぐにでも助けの手が必要な状態の被災者が、道具もなしに、いきなり犯
人探して惨殺に走るだろうか?そんな元気残っているだろうか?
それより何より、まず助かる為に飲める水を探すか、井戸の水なんとかしてして飲める様にする事
を一番に考えるんじゃないだろうか?
そしてその考えは大体当たってた。でもやり方は俺が想像もしてなかったモノだった。

かーちゃんが聞いた話だと、当時はまだ今で言うオカルトみたいな迷信とかも信じられていたので、
本当に井戸に毒が入れられて穢されたんなら、まず井戸の神様の怒りを鎮めてもらおうって事になっ
たらしい。被災者の中から、拝み屋さんや霊能力者が名乗り出たそうだ。

知り合いが見たのは、道具も何も失った巫女やったモノだったそうで、井戸の周りの足跡の上に、近
くにある炭を人型に削り、真っ黒な布をかけて、上からその井戸の水を呪文を唱えながらかけ回し、
近くにあった燃え残った長い釘を、足跡まで貫く様にぐさっ!って突き刺す物だったって。
そしたら、完全に火が消えていたはずの炭人形から、腐った様な匂いの黒い煙がシューって感じに吹
き出して、バン!って音と一緒に人形は砕け、後には黒い布ごと焼けただれた釘を刺された足跡が残
ったらしい。
巫女のおばあさんは、
「穢されておったか。井戸の神さんがお怒りだった」
と残念そうに呟いて。
「井戸の神さんをお鎮める道具もなく潔斎も出来なかったので、禍を相手に呪詛返しするしか無かった。
これでお水を頂ける様にはなったはず」
それで、井戸の水が飲めて、ひいひい婆ちゃんの知り合いは助かったらしい。
しかし、
「呪返しを受けた人間は、その親戚も含め何代も惨く死んでしまう。井戸の神さん怒らせたら、お稲荷さ
んと大差無いくらい、障る神さんだから」
と、巫女さんは辛そうだったそうな。

最初聞いた時は、最初から毒なんて入ってなかったのに、フェイクニュースに怯えて水が飲めず、このま
までは死んでしまう被災者を助ける為の方便だろ、絶対それ。
そうれ以外思えなかったんだけど……。
近頃いきなりい出て来るこの手のニュース見てると『明らかに震災ではない死に方した人』が『6000人』
って言ってる訳だよな、あちらさんは。
だったらその『虐殺』ってもしかしたら呪詛関係じゃないのか…って、頭の隅で一寸だけ思う様になった。

常識的に考えて、生活道具も一切合切失った怪我して疲れ切った被災者が、元気に6000人も人殺しが出来
る訳が無いだろって。