黙していれば、誤った歴史認識が一層広まる。厳しい姿勢で臨むのは、やむを得まい。

 米サンフランシスコ市で、中国系の民間団体が慰安婦の像を私有地に設置した。土地は市に譲渡され、像についても、市議会が寄贈の受け入れを全会一致で決定した。

 「性的に奴隷化された数十万の女性と少女の苦しみを証言するもの」「ほとんどが捕らわれの身のまま亡くなった」。碑にはこうした文言が刻まれている。

 史実を歪曲わいきょくした内容だと言うほかない。旧日本軍が慰安婦を強制連行したかのような誤った印象を与える。市議会が公的なモニュメントとしてのお墨付きを与えたことは、極めて遺憾である。

 サンフランシスコ市と姉妹都市提携を結ぶ大阪市の吉村洋文市長は「慰安婦像の受け入れ強行は、信頼関係を損ねる」と、懸念を表明した。提携解消の意向も明言した。うなずける対応だ。

 大阪市は再三、書簡を送付して慎重な対応を求めてきた。「碑文は、歴史の直視でなく、単なる日本批判につながる」「現地コミュニティーに分断を持ち込み、姉妹都市交流にネガティブな影響を及ぼす」といった内容だ。

 サンフランシスコ市のエドウィン・リー市長は10月、「批判にさらされても、地域に対して応えていく」と、大阪市の要請を袖にする姿勢を示していた。

 一大勢力である中国系市民の意向を無視できないのだろう。

 両市は1957年の提携開始以来、市長の相互訪問や学生の交流事業などで親交を深めてきた。60周年の今年は、現地で記念事業が行われた。10月には代表団が大阪市を訪れ、歓迎会が開かれた。

 積み重ねてきた交流が、一部の民間団体の悪意に満ちた反日的な活動を契機として、台無しにされる。残念な事態である。

 米国では、グレンデール市やブルックヘブン市の公園にも慰安婦像が設置されている。いずれも背後には、韓国系の民間団体の活発な働きかけがあった。

 主要都市であるサンフランシスコ市に慰安婦像が設置された影響は小さくないだろう。

 歴史認識を巡る問題は、大阪市に任せて済むことではない。菅官房長官は記者会見で、「現地の大使館、総領事館を通じて、情報収集を行い、しっかり対応していきたい」と語った。

 政府は、今回の事態を招いたことを反省し、正確な史実を世界に発信せねばならない。



2017年11月17日 06時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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