韓国には旅行者を含む約5万7千人の日本人が在留しており、政府は最終的には自衛隊を活用した退避支援を想定している。ただ、韓国国内には自衛隊が同国内で活動することに反発があり、邦人退避が円滑に進む保証はない。

 政府は1994年の朝鮮半島危機を受けて非戦闘員退避活動(NEO)計画作成に着手し、数回の見直しを行っている。朝鮮半島の緊張が高まった段階では、渡航自粛や民間機での退避を促す。有事が発生すれば韓国国内のシェルターに避難し、あらかじめ指定した場所に集合する。ここから空港や港湾に移動し、韓国から避難する手順だ。

 国外の邦人輸送で指揮を執った経験がある元航空支援集団司令官の永岩俊道氏は「自衛隊の輸送能力には限界がある。必要な数の100分の1も運べない」と述べ、民間航空会社などの協力が必要だと指摘する。

 海上輸送に関し、政府は釜山や仁川など韓国国内の港湾施設5カ所のうち利用可能な港湾から輸送する案を検討している。韓国政府が自衛隊艦船の寄港を拒否すれば、輸送艦や護衛艦を公海上に浮かべ、米軍ヘリコプターなどでピストン輸送する選択肢もある。

 自衛隊関係者は韓国でのNEOについて「日本単独では無理だ。多国籍軍や国連軍の枠組みでやるしかない」と語る。2010年11月の延坪島(ヨンピョンド)砲撃の際は、フィリピン政府が在韓比人の日本への退避を要請しており、多くの外国人が避難する事態も想定される。

 韓国国内の集合場所から空港・港湾への輸送支援では陸上自衛隊が邦人を陸上移送する案もあるが、さらにハードルが高い。昨年3月に施行された安全保障関連法で任務遂行型の武器使用が認められたものの、受け入れ国の同意が必要である点に変わりはない。防衛省関係者は「韓国の反日世論を考えれば地上部隊の投入は難しい」と語る。

 日韓協議を妨げている要因はほかにもある。

 ある外務省幹部は韓国政府関係者との協議で在韓邦人退避に話題が及んだ際、「福島第1原発事故のときに各国大使館が大阪や国外に退避して、日本人はどう思ったか」と迫られた。

 別の交渉担当者は「韓国政府は邦人退避の協議が表に出れば『韓国は危険だ』というイメージが広がり、韓国の市場の株価が下がることを恐れている。だから協議を公表してほしくないと求められた」と明かす。(杉本康士、千葉倫之)

2017.11.24 05:00
http://www.sankei.com/smp/politics/news/171124/plt1711240008-s1.html